覚え書:「書評:滅びゆく日本の方言 佐藤亮一 著」、『東京新聞』2015年11月15日(日)付。

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滅びゆく日本の方言 佐藤亮一 著

2015年11月15日
 
◆多様さの起源たどる
[評者]小倉孝誠=慶応大教授
 それぞれの土地で話される方言は地域住民の絆の一つであり、それを話す人々の間で共同体意識を強める。もちろん、方言も変化する。本書は、日本の方言の成立と現状を興味深く語ってくれる。
 著者は自然現象、食べ物と料理、動植物、そして身体など、日常生活とつながりの深い領域にそくして、日本各地の多様な方言を紹介し、その歴史的な起源を探っていく。なかには、奈良・平安時代にまで遡(さかのぼ)る由緒正しい言葉もある。
 地域差が明瞭なケースは面白い。理由を示す接続助詞「から」は、東北地方北部では「ハンデ」、近畿から北陸にかけては「サカイ」、そして西日本各地では「カラニ」が用いられる。方言の多様性には、あらためて驚かされる。
 教育と、テレビなどメディアの普及によって共通語化が進み、方言が衰退していると言われる。しかし、現実はそうでもない。各地に住む人々は世代に関係なく、日常生活では方言を使用し、方言が通じない相手とは共通語で話す、というように両者を巧みに使い分けているのだ。特に感情、感覚、身ぶりなど微妙なニュアンスをもつ語は方言として残りやすい、という指摘には納得した。方言は滅ばない、というのが著者の主張である。
 かつて方言には負のイメージが付きまとっていたが、今では国語教育で方言が重視されている。その変化は喜ばしい。
 (新日本出版社・1620円)
<さとう・りょういち> 1937年生まれ。フェリス女学院大名誉教授。
◆もう1冊 
 小路幸也ほか著『とっさの方言』(ポプラ文庫)。六十四人の作家が生まれ故郷の方言への思いをつづるエッセー集。
    −−「書評:滅びゆく日本の方言 佐藤亮一 著」、『東京新聞』2015年11月15日(日)付。

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滅びゆく日本の方言
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