覚え書:「建築から都市を、都市から建築を考える 槇文彦 著」、『東京新聞』2015年11月15日(日)付。

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建築から都市を、都市から建築を考える 槇文彦 著

2015年11月15日
 
◆空間価値の過去、現在
[評者]市川紘司=建築史家
 槇文彦アメリカ留学を終え、日本で本格的に建築家として活動を始めてすでに半世紀。書名が示す通り、この間の槇は、建築をモニュメントや商業主義的なブランドではなく、都市空間と地続きの日常的なものと見なし、設計してきた。
 モダニズムの日本における無二の正統的継承者である槇の来歴は、個人史であり、近代建築史そのものである。事実、槇は本書で自らの半生を振り返りながら、近代のスターたちを実感のこもるコメントで豊かに描写する。英語を喋(しゃべ)りたがらないル・コルビュジエ。「高校球児」のように燃える黒川紀章メタボリズム。「近代建築」が遠い史上の出来事となる中、本書は、近代以降の世界、とくに日本において、建築家がいかに社会と対峙(たいじ)してきたか、その歴史を等身大で理解するに最適の手引きとなるだろう。
 ただし、本書が主題とするのは過去とともに現在だ。例えば、孤独を楽しめる場所こそ公共空間だという指摘は、SNSとスマホによる「つながり過剰」な社会で、建築や都市が織りなす現実空間の価値を再認識させてくれる。くり返し議題に浮上する「新国立競技場問題」も同様だ。白紙撤回後の「新国立」はプロセスの不透明なデザインビルド方式の入札が進行中だが、この流れをどう評価すべきか。端緒となる問題提起をした槇の考えにいま一度耳を傾ける必要がある。
 (聞き手・松隈洋、岩波書店・2052円)
<まき・ふみひこ> 1928年生まれ。建築家。著書『漂うモダニズム』など。
◆もう1冊 
 藤森照信著『建築とは何か』(エクスナレッジ)。15の質問状などで構成した、建築を理解するための入門書。
    −−「建築から都市を、都市から建築を考える 槇文彦 著」、『東京新聞』2015年11月15日(日)付。

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