覚え書:「書評:優しいライオン 小手鞠るい 著」、『東京新聞』2015年11月22日(日)付。

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優しいライオン 小手鞠るい 著

2015年11月22日
 
◆師・やなせの義憤と愛
[評者]嶋岡晨=詩人
 「人生はさびしいけれど、すてたものじゃない」は、絵本『アンパンマン』や「てのひらを太陽に」の作詞でつとに知られた、やなせたかしの名言。その彼の年功序列など無視し、無名人を積極的に拾った主宰誌『詩とメルヘン』から巣立った作家・小手鞠るいが、感謝の情もたっぷりと彼の生涯を描いたのが本書だ。
 やなせの奥深い優しさは、むろん作品からよく伝わるが、核心に社会的正義感・義憤があったことは、この著者の指摘でより的確に理解されよう。彼女が<サンリオ 詩とメルヘン賞>を受けると、「どうか偉大な詩人なんかにならないで…」とやなせは言った。世評・時評の虚妄をよく見ぬいた忠告である。
 さらに師やなせの愛と献身が、人間のみならずすべての生命に向けられていることの感知、確認があり、その証言の核心におのずから浮かぶのは、例えば愛に挫折した彼女に、「もうこれ以上、恋の詩は書かなくていいよ」と助言する姿勢だ。「谷に落とした子を、みずから救いに降りてきた」ライオンのようだった、と小手鞠は表現している。やなせの人間味をよくとらえた、いい言葉だ。
 最晩年に発表した戦争体験記『ぼくは戦争は大きらい』で、戦死した愛弟を痛哭(つうこく)したやなせに通底する哀(かな)しみ、いきどおりが、優しさの中によみがえる。これは今日まれな師弟愛の書でもある。
講談社・1728円)
<こでまり・るい> 1956年生まれ。作家・詩人。著書『テルアビブの犬』など。
◆もう1冊 
 やなせたかし著『絶望の隣は希望です!』(小学館)。絶望の連続だった自身の過去を語り、人々を励ますメッセージ。
    −−「書評:優しいライオン 小手鞠るい 著」、『東京新聞』2015年11月22日(日)付。

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