覚え書:「書評:電気は誰のものか 電気の事件史 田中聡 著」、『東京新聞』2015年11月22日(日)付。

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電気は誰のものか 電気の事件史 田中聡 著

2015年11月22日
 
◆住民の強い公益意識
[評者]山岡淳一郎=ノンフィクション作家
 暮らしに欠かせない電気は「あなた」のものか「私」のものか。素朴な問いかけは、公益について考える糸口になる。
 本書は、明治・大正・昭和の電気に関わる事件を丹念に追い、公益の原像を浮かび上がらせる。大正初期、長野県の村で騒乱が起きた。長野電灯会社と契約をした七軒が、群衆に家を壊されたり焼かれたりしたのだ。村営の電気供給を願う人たちが、抜け駆け同然に電気を引いた者に鉄槌(てっつい)を下した。背景には政官界と長野電灯会社の癒着があったという。
 昭和初期には全国で電灯料金の値下げ争議が頻発。料金不払い運動が起きると、電力会社は送電線を断ちきって対抗する。住民は町じゅうの電灯設備を集めて電力会社に叩(たた)き返す。消耗戦であった。
 水力発電が主流だった当時、一農民は「皆に恵まれているはずの自然の力を略奪した少数者」が暴利を貪(むさぼ)っていると憤った。この怒りが現代にはなかなか伝わらない。「自然観に基づいていた公共性の観念」が失われたからと著者は説く。
 地域住民と私企業が火花を散らした電気は、戦時下に統制されて国家のものとなる。敗戦後、民営に戻って今日に至るが、「電気は誰のものか」という問いは色あせてはいない。国民の過半数が反対する原発再稼働を政官財が進める。この状況は公益性を激しく揺さぶっている。
晶文社・2052円)
<たなか・さとし> 1962年生まれ。作家。著書『怪物科学者の時代』など。
◆もう1冊 
 小山慶太著『エネルギーの科学史』(河出ブックス)。近代エネルギーの電気や原子力が人類社会をどう変えたかを検証。
    −−「書評:電気は誰のものか 電気の事件史 田中聡 著」、『東京新聞』2015年11月22日(日)付。

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