覚え書:「【書く人】人類への恵みは尽きず『白い大陸への挑戦・日本南極観測隊の60年』  国立極地研究所名誉教授・神沼克伊(かつただ)さん (78)」、『東京新聞』2015年12月13日(日)付。

Resize0155

        • -

【書く人】

人類への恵みは尽きず『白い大陸への挑戦・日本南極観測隊の60年』  国立極地研究所名誉教授・神沼克伊(かつただ)さん (78)

2015年12月13日


写真
 半世紀前、南極観測隊員は子どもたちのヒーローだった。観測船「宗谷」「ふじ」の出航のたびにニュースとなり、人跡未踏の極寒の地で、人知と科学の粋を集めて越冬する隊員の姿に冒険心を刺激された。
 神沼さんは一九六六年の第八次観測隊の越冬に参加。二度の越冬や数多くの観測隊参加を介し、南極大陸での地震やオーロラ観測など極地研究を続けてきた。本書は世界規模の南極観測の歴史、六十年に及ぶ日本の観測の推移、その成果や課題を、豊かな知識と現場の体験に基づいて展開した南極小史である。
 「還暦を迎えた南極観測史をより確かな情報で書いた。南極は私に自然や科学とは何かを教えてくれた師ですから、その恩返しのためにも。まだ貧しかった六十年前、世界に伍(ご)して極地観測に参加することで、日本人が何を取り戻し、何に期待を寄せたのか。この半世紀でどのように南極の捉え方が変わったのか」
 地球や自然を調査研究する観測隊の維持には世界平和と社会のバックアップが必要なこと、各国の観測隊が相互に情報を共有できる国際協力に支えられてきたことが何度も語られる。南極はそんな国際協調のシンボルであり、地球物理の謎を解く気象や地磁気の観測、隕石(いんせき)やオゾンホールの発見、氷床や極地生物の調査が継続されてきた。
 「地球上の一観測点として南極観測は国際貢献を果たしてきた。一方で観測隊への女性や年少者の参加も増え、旅行者も増えている。六十年の間に少しずつ社会に開かれてきた南極を、観測だけでなく、別様に社会還元する必要を感じ始めた」。そんな時代の変化に応じ、南極観光や観測教育の可能性にも言及する。
 神沼さんの本来の専門は地震や火山噴火の予知。南極についての本のほかに、地震など自然災害の書物もある。そこで展開されるのは避難所や堤防のような公共頼みの防災よりも、個人が自然や災害にどう日常的に向き合うかの姿勢だ。
 「科学は自然を制御できません。科学者のあるべき姿、科学の本領と自然の底知れぬ力を知るべきで、南極での経験はそれを教えてくれた。今はまだ南極では資源開発や領土に関する駆け引きが凍結されていますが、時限が切れたらどうなるか。科学者は南極の富を守る姿勢を貫いてほしい」
 現代書館・一九四四円。
 (大日方公男)
    −−「【書く人】人類への恵みは尽きず『白い大陸への挑戦・日本南極観測隊の60年』  国立極地研究所名誉教授・神沼克伊(かつただ)さん (78)」、『東京新聞』2015年12月13日(日)付。

        • -





http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/kakuhito/list/CK2015121302000186.html








Resize4831_2



白い大陸への挑戦―日本南極観測隊の60年
神沼 克伊
現代書館
売り上げランキング: 623,098