覚え書:「書評:貧困大国ニッポンの課題 橘木俊詔 著」、『東京新聞』2016年02月14日(日)付。

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貧困大国ニッポンの課題 橘木俊詔 著

2016年2月14日


◆成長の終えん前提に
[評者]根井雅弘=京都大教授
 
 著者は格差問題についてここ数十年のわが国の論壇をリードしてきた、いわば先輩格だ。格差といっても、賃金格差、健康格差、教育格差など個別にはいろいろな問題があるが、著者は個別問題に入る前に、日本がいまや「貧困大国」になっている事実を客観的に直視すべきだと主張する。「貧困率」、つまり国民の所得分配上で中位にいる人の所得額の50%に満たない所得の人が、この三十年弱の間に12%から16%に上昇しているのである。この数字はアメリカに次いで高い。
 この事実は、いまだに成長神話にそまっている人たちにはショッキングであるに違いない。現政権もアベノミクスのひとつに成長戦略を掲げていたように、このような成長至上主義から抜け切っていない。
 だが著者は、少子高齢化の時代、成長神話から脱却し、かつてのJ・S・ミルのように「定常状態」を前提にした制度を再構築すべきだと主張している。もちろん、定常状態でも安心感のある生活を実現すべきであることはいうまでもないが、著者は充実した福祉の実現のためには消費税増税を財源にする以外にないと言う。その上で、個別の格差を是正するための対策を講じるべきであると。
 論理は明快であり、実証的分析も豊富である。現代の経済問題に関心のある人たちにはおすすめの一冊である。
 (人文書院・1836円)
 <たちばなき・としあき> 京都女子大客員教授。著書『日本人と経済』など。
◆もう1冊 
 森岡孝二著『雇用身分社会』(岩波新書)。雇用形態が格差と貧困に直結する雇用身分社会の実態を明らかにする。
    −−「書評:貧困大国ニッポンの課題 橘木俊詔 著」、『東京新聞』2016年02月14日(日)付。

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