覚え書:「書評:無戸籍の日本人 井戸まさえ著」、『東京新聞』2016年03月06日(日)付。

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無戸籍の日本人 井戸まさえ著

2016年3月6日
 
◆背景に偏見と無関心
[評者]大橋由香子=フリーライター
 マイナンバー導入の管理社会で、戸籍のない人たちがいる。元凶のひとつは、民法七七二条。妻が離婚して三百日以内に生まれた子は、前夫の子と推定する規定が明治時代から存続し、昨年十二月ようやく見直された。
 国会議員だった著者も前夫とやっと離婚が成立したが、新しい夫との赤ちゃんは早産のため無戸籍になった。試行錯誤の末に起こした裁判で、裁判長にこう宣告された。「子の父は国が決めます」
 この経験を契機に、著者は千三百人以上の無戸籍の人と家族への支援を始める。DV夫から逃げたが、離婚できずに新しい夫との間に生まれた子。病院に出産費用が払えず、出生証明書を後で取りに来るつもりが、事情が重なり果たせなかった母…。背景には暴力や生活困窮もある。
 戸籍がないと学校に行けず、仕事も限られる。息をひそめて暮らしてきた彼女、彼らが著者とつながり、やっとの思いで市役所や裁判所に行く。救済される!と思いきや、冷たい言葉と態度で追い返される。なんと不条理な世界だろう。
 浮かび上がるのは、離婚した女性への懲罰的な感覚と、「そんな人」には人権を認めない雰囲気だ。困っている人を犯罪者のように扱い、弱者に鞭(むち)打つ仕組みと偏見に背筋が寒くなる。だがそれは、わたしたちの無関心を映し出している。
 (集英社・1836円)
 <いど・まさえ> 1965年生まれ。ジャーナリスト。共著『子どもの教養の育て方』。
◆もう1冊 
 二宮周平著『家族と法』(岩波新書)。現代の家族が直面している問題を示し、戸籍・離婚・相続などの法律を紹介。
    −−「書評:無戸籍の日本人 井戸まさえ著」、『東京新聞』2016年03月06日(日)付。

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