覚え書:「書評:原節子の真実 石井妙子 著」、『東京新聞』2016年05月29日(日)付。

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原節子の真実 石井妙子 著

2016年5月29日
 
◆虚像を去る強い決意
[評者]大場正敏=鎌倉市川喜多映画記念館顧問
 突然の映画界引退後、半世紀もの間「伝説」として語られてきた女優原節子。九十五歳での逝去も故人の意思で二カ月以上も伏せられた後、その訃報が日本全国を駆け巡ったことは記憶に新しい。
 不本意ながら映画女優となった十四歳の少女は、やがて日独合作映画に抜擢(ばってき)され、類いまれな美貌でスターの座を射止める。戦後は吉村公三郎今井正黒澤明木下恵介らの新進監督、また小津安二郎成瀬巳喜男らの名匠作品に相次いで出演、代表作が形成される。演技指導の相違からスター女優への対応は二分され、この時期に彼女を擁護した小津の黒澤への対抗意識の記述は興味深い。
 彼女の出演歴を辿(たど)りつつ、「昭和」という激動の時代に密着していた女優の姿を明確にする。そして「伝説」形成に関わった過去の言説にも新たな視点で取り組み、若き日に引き裂かれた青年の後日談も記述する。水着姿や歌手、GHQ慰問への要請拒否事件などは、彼女の強固な意志力であったと断じ、そして最大の謎である義兄・熊谷久虎監督の実像に迫った<空白の一年>の章は白眉である。
 虚像から実像たる「会田昌江」を取り戻す突然の引退と、決意の強固な証しとして世間からの隔離を徹底させた。映画化を熱望しつつ叶(かな)わなかった『細川ガラシャ』に彼女を模した視点が好ましい。
 (新潮社・1728円)
 <いしい・たえこ> 1969年生まれ。ノンフィクション作家。著書『おそめ』など。
◆もう1冊 
 千葉伸夫著『原節子』(平凡社ライブラリー)。昭和の伝説の女優のデビューから銀幕を去るまでの軌跡を描いた評伝。
    −−「書評:原節子の真実 石井妙子 著」、『東京新聞』2016年05月29日(日)付。

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