覚え書:「【書く人】政権を超越する伝承 『風土記の世界』  立正大教授・三浦佑之さん(69)」、『東京新聞』2016年06月12日(日)付。

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【書く人】

政権を超越する伝承 『風土記の世界』  立正大教授・三浦佑之さん(69)

2016年6月12日
 
 古代日本の神話的歴史を記した古事記日本書紀、そして八世紀初頭の同時代には列島各地の地誌として風土記が成立した。中国の制度を取り入れ、ヤマト王権律令(りつりょう)国家の基盤を整えるために紀(歴史)、列伝(英雄伝)、志(地誌)を企画し、風土記はその志にあたるが、後世まで残ったのは常陸・出雲など五つの地域と各地の逸文である。
 「千年以上前の書物の散逸は仕方ない。むしろよく残ったと思う。風土記は今まで地方史として評価されてきましたが、私は当時の地域がヤマト政権にどう向き合ったかを示す史料として、古事記日本書紀とともに古代の全体史のトライアングルとして捉えたい」
 三浦さんには古事記の口語訳をはじめ、「未整理の王権史」という独特な解釈による数々の古事記論がある。日本書紀律令体制の正史である一方、古事記はその本流から逸脱した神話や伝承の宝庫で、風土記も同様だと解釈する。「風土記は当時の官僚の編纂(へんさん)の手が入り、確かに日本書紀の影響が色濃いものですが、国家の史書の論理や歴史認識には収まらないさまざまな伝承が盛り込まれる」
 例えば常陸国風土記日本書紀以前に記録されたもので、天皇が征服の巡行をする記述から書紀の天皇の系譜とは異なった系譜が推測される。出雲国のそれは三浦さんが古事記論で解読したヤマト王権への服属に最後まで抵抗した痕跡や、ヤマトの支配権を越えた出雲独特の日本海での交易を跡づける国引き神話が描かれる。さらに播磨国は滑稽でちょっと間抜けなオホナムヂ(大国主)像が、豊後国では「速津媛(はやつひめ)」という女性首長が暗示される。
 既成の古代史像を解体し、組み立て直す三浦さんの解釈や推論は古代史へのイメージが膨らむと同時に、実にスリリング。
 「中央と地方というくくり方には収まらない地域のありようが記され、中央集権的な一つの歴史観ではなく、地域の側から捉えたいくつもの古代史やその多彩な伝承を知り、歴史のイデオロギーに足をすくわれない柔軟な読解を鍛えてほしい。そのために考古学や自然科学などとの協働も今後大切になると思います」
 ない物ねだりだが、六十余国の風土記がもし残っていたら、どんなに豊かで多種多様な列島の起源が示されただろうに。
 岩波新書・九○七円。(大日方公男)
    −−「【書く人】政権を超越する伝承 『風土記の世界』  立正大教授・三浦佑之さん(69)」、『東京新聞』2016年06月12日(日)付。

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