覚え書:「【書く人】国が性を管理する未来 『アカガミ』 作家・窪美澄(みすみ)さん(50)」、『東京新聞』2016年06月19日(日)付。

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【書く人】

国が性を管理する未来 『アカガミ』 作家・窪美澄(みすみ)さん(50)

2016年6月19日
 
 著者初の近未来小説だ。時は、二〇三〇年の東京。若者は結婚・出産どころか、恋愛さえしない。渋谷のスクランブル交差点を闊歩(かっぽ)するのは、四十代以上の中高年ばかり。ごくたまに街で見かける若者は、精神を病んでいるか、自殺しようとする。
 そんな時代に、国が若者をお見合いさせる制度「アカガミ」をつくった。主人公は二十五歳の女性ミツキ。父に去られた後、引きこもって寝たきりの母を世話しながら高齢者介護の仕事をしている。ミツキは自殺未遂した時に偶然助けてくれたログという謎の女性から誘われ、アカガミに参加することを決心する。
 参加者は身上調査や身体検査を終えて専用の団地に入居する。相性が良いと診断された異性と「つがい」にされ、相手に接近し、セックス・妊娠・出産まで綿密に管理される。いわば「自力で産めないなら、国が産ませる。その代わり子どもは国のものにする」制度。優秀な遺伝子を国家が管理して残すという、強烈な優生思想の産物だ。
 デビュー作から一貫して「性」と「生」をテーマに書き続けてきた。今回の執筆のきっかけは、「出会い方が分からない」だけでなく「恋愛はコスパ(費用対効果)が悪い」「他人の体に触れたくない」といった若者の恋愛離れを見聞きしたこと。いまや人間関係は仮想空間での交流が主、という若者も珍しくない。
 加えて社会の変化もあった。「秘密保護法や安保法制、ヘイトデモなど、世の中がきな臭くなってきたなと感じながら書いた」。日本にじわじわ広がる全体主義への危機感から、国のお見合い制度に、戦中の召集令状と同じ名称をつけた。
 物語では、主人公とそのパートナーの間に、新たな命が誕生する。結末は、読み手によって、絶望とも希望があるとも読み取れる。
 かすかな光があるとすれば、「どれだけ世の中が変わっても、人間が持つ本能や動物的なものは残る」ということ。四十四歳でデビューする前、ライターの仕事で産婦人科医をよく取材した。「科学技術が進んでも、生物学的な限界は変わらない」と力説された。
 「ざらざらしたものを取り去って、世の中がつるんとしていくのがいやなんです。たとえば、泣き叫ぶ子どもはやっかいな存在。そんな異分子が多様に存在できる社会であってほしい」
 河出書房新社・一五一二円。 (出田阿生)
    −−「【書く人】国が性を管理する未来 『アカガミ』 作家・窪美澄(みすみ)さん(50)」、『東京新聞』2016年06月19日(日)付。

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