覚え書:「【東京エンタメ堂書店】偕成社80周年 大人も読みたい絵本」、『東京新聞』2016年08月22日(月)付。

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【東京エンタメ堂書店】

偕成社80周年 大人も読みたい絵本

2016年8月22日


 家の本棚に古い数冊の絵本があります。見ると、半世紀前に偕成社が出したものでした。今年創立80年を迎えた同社の絵本の中から、大人でも読みたい4冊を、文化部の矢島智子が選びました。

◆憧れの「夏の1日」
 毎年夏になると必ずページを開いてしまうのが<1>はたこうしろう作『なつのいちにち』(1080円)です。登場人物は小学生くらいの男の子1人。太陽が照り付ける夏の日に、クワガタムシを捕りに駆け出します。文章は最小限にそぎ落とされていますが、描かれた場面があまりに雄弁で、読む人は「そうそう、こんなときがあった」と思ってしまいます。でも実際に、ここまで豊かな体験をした人は少ないでしょう。私たちが永遠に憧れる「夏の1日」が絵本になっているのです。

◆よだれが出てきそう
 昨年、本屋で手にして書棚に戻せなくなってしまったのが<2>加藤休ミ作『きょうのごはん』(1296円)。猫がご近所の夕飯の献立を拝見して回るお話ですが、サンマの塩焼き、ごろごろ具だくさんのカレー、揚げたての手作りコロッケ…。描かれた数々のごはんは、よだれが出てきそうなほどリアルです。そのとき、おなかがすいていたわけではありません。見るたびに幸せな気分にしてくれると信じて購入しました。なつかしい昭和の味がします。

◆死んでも守りたい
 「日本児童文学の父」と呼ばれる小川未明(1882〜1961年)。没後50年が過ぎた今も偕成社は絵本で『赤い蝋燭(ろうそく)と人魚』と『牛女(うしおんな)』を出していて、ファンにはうれしい限りです。<3>小川未明作、高野玲子絵『牛女』(1728円)は、「牛女」と呼ばれた大柄で心優しい母親が、死んでも守り続けようとした一人息子への愛を描いています。悲しく寂しく温かい未明の物語世界を、高野さんの絵が絶妙に表現しています。

◆「お金って?」結末に泣く
 亡くなった絵本作家の長新太さんが昔書いてくださった原稿に「子どもとお金、と考えただけで、とても大きな主題に思え尻込みをしてしまう」という一文があったのを忘れられません。<4>V・オルロフ作、田中潔・文、V・オリシヴァング絵『ハリネズミと金貨』(1512円)は、その難しい主題に向き合ったまれな絵本です。
 ハリネズミのおじいさんは草むらで1枚の金貨を拾います。これで冬ごもりに必要なあれこれを買い求めようと思いますが、次々に仲間が声を掛けてきて…。私はこの絵本の結末を読むたびに泣けてきます。お金って何? 本当に必要な物とは? 大人が読んで気づくことのある絵本です。

◆箱入りの宝物
 今も大切にしている古い絵本のうち2冊を紹介します。『幼年絵童話全集(1)アンデルセンどうわ』(1966年重版、絶版)は、いわさきちひろの絵が美しくはかなげで、数え切れないほどページを繰りました。監修は川端康成村岡花子ら。ビニールカバーの上に箱に入っています。
写真
 はまだひろすけ文、かきもとこうぞう絵『こねずみ ちょろちょろ』(1965年、絶版)は、リズミカルな文章と、とても愛らしい絵が幼心をとらえました。こちらも箱入りで、絵本が貴重な時代でした。
    −−「【東京エンタメ堂書店】偕成社80周年 大人も読みたい絵本」、『東京新聞』2016年08月22日(月)付。

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