覚え書:「リレーおぴにおん:カフェより:5 一期一会、どこでも哲学 松川絵里さん」、『朝日新聞』2016年06月08日(水)付。

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リレーおぴにおん:カフェより:5 一期一会、どこでも哲学 松川絵里さん
2016年6月8日

松川絵里さん
 いま私が副代表を務めている「カフェフィロ」は、文字通り「哲学(フィロソフィー)カフェ」を開いている団体です。くらしに関わるテーマについて、飲み物片手に話し合い、考える。哲学の知識は問いません。そのテーマなら考えてみたいという人たちを募って、自己紹介なしに一期一会の議論を楽しんでもらっています。

 5月に「女性が輝く社会とは」をテーマに私が進行役を務めた回には、老若男女10人あまりが参加しました。どう議論が展開するかは、参加者次第です。始まってしばらくして、「そもそも輝くって?」という疑問から盛り上がりました。「男性はすでに輝いているってこと?」という声も。テーマの本質を掘り下げていくのは、哲学カフェらしい展開といえます。

 場所は、松江市のコミュニティー施設の会議室でした。参加者は、長机を「ロ」の字にして向き合います。参加費は500円で、おかわり自由のコーヒー、お茶とお菓子がつきます。

 「これがカフェ?」と、初めて見た人は思うでしょう。2005年にできたカフェフィロでは、普通のカフェはもちろん、さまざまな場所を舞台にしてきました。図書館や地域の集会所、美術館、お寺……。地下鉄のコンコースもありました。肝心なのは、外見ではないのです。

 私たちのイベントでは、途中の出入りも、発言をするのもしないのも自由です。そして、普段の社会的立場から離れて、対等に語り合う。そんな場所に、多くの人にとっては本来のカフェがうってつけですが、お店じゃなくてもできますよね。たとえば、幼いお子さんを連れたお母さんにとっては、託児サービスのある地域のコミュニティー施設の方が落ち着いて話せます。

 哲学カフェは、1992年にパリで生まれ、日本では99年に始まったと言われています。私たちは全国各地で月に10回ほどを開いていますが、ほかにもいろいろな方が、それぞれのやり方で開いています。

 私たちが、参加者にお願いしているのは、人の話を最後まで聞くこと。自分とは違う考えにショックを受けるかもしれません。でも、ここの目的は、白黒付けることではなく、対話の過程そのもの。日常の前提が覆され、自分の立場を掘り返すことになることも、しばしばです。でも、違った視点で自分を見つめることができれば、限界も、別の可能性も見えてきます。

 終わったとき、参加者が「疲れた」と言いつつ生き生きしているとうれしい。来たときと違う顔で帰っていく。実践的な知として哲学が生きるのを感じます。(聞き手と撮影 村上研志)

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 まつかわえり 哲学者 1979年生まれ。大阪大学大学院時代からカフェフィロの活動に参加し、2014年から今年3月まで代表。編著に「哲学カフェのつくりかた」がある。
    −−「リレーおぴにおん:カフェより:5 一期一会、どこでも哲学 松川絵里さん」、『朝日新聞』2016年06月08日(水)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12398280.html


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