覚え書:「【東京エンタメ堂書店】集英社インターナショナル・高田功出版部部長 クルーニーの心意気で」、『東京新聞』2016年10月03日(日)付。

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【東京エンタメ堂書店】

集英社インターナショナル・高田功出版部部長 クルーニーの心意気で

2016年10月3日


 二〇〇五年のアメリカ映画、『グッドナイト&グッドラック』が大好きです。
 監督・脚本は、あのジョージ・クルーニー。五〇年代、テレビが米国社会に浸透し始めた頃に活躍したエド・マローという実在のキャスターが主人公。全米に赤狩りの恐怖が蔓延(まんえん)するなか、マッカーシー上院議員に敢然と闘いを挑むジャーナリストの物語です。
 時の権力者に立ち向かうなか、いろいろな軋轢(あつれき)が生じます。軍や政治家からの圧力、スポンサーなどなど……。
 主演はD・ストラザーン。全編モノトーンで、幕間(まくあい)にはダイアン・リーヴスが歌うジャズが流れ、それはそれは、かっこいい映画です。
 公開された二〇〇五年というのは、ブッシュ政権が起こしたイラク戦争の過ちに、人々が気づき始めた頃です。
 イラク侵攻当初、クルーニーをはじめ戦争に反対した有名人たちは、非難の矢面に立ちました。戦争を批判したカントリーミュージックの人気美女バンドがパージされたりもしました。
 そんな風潮のなか、この映画を作り始めたクルーニーの心意気を強く感じます。
 その後、「やっぱりイラク戦争はまちがいだった」という雰囲気が強くなると、一転、クルーニーの名前が大統領候補に取り沙汰されたりの「手のひら返し」。
 映画は、そんな彼の、私たちも含むメディアへの叱咤(しった)激励だと思います。「しっかりしてくれよ」と。
 戦争ができる国になってしまっていいのか。オリンピックを口実に原発事故をないものにしていいのか。私たちにできることは何なのか。
 一九九四年の創立以来、小社は『スラムダンク勝利学』『オシムの言葉』『資本主義はなぜ自壊したのか』などのベストセラーを刊行。
 最近では『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』と話題作を発刊しています。
 また『犬と、走る』『外道クライマー』など新しい冒険ノンフィクションも好評です。
 二十人あまりの小さな所帯ですが、だからこそできることがあるはずと、ブレない、楽しい、知的好奇心に溢(あふ)れた本づくりを目指しています。
 それでも挫(くじ)けそうになった夜は、シーバスの水割り片手に『グッドナイト&グッドラック』を観(み)て、クルーニーに励ましてもらっています。

◆お薦めの3冊

◆戦争の1000の思い出
 <1>ヤスミンコ・ハリロビッチ編著、角田光代訳、千田善監修『サラエボ1992−1995 ぼくたちは戦場で育った』(2268円)。
 犠牲者の8割が一般市民だというサラエボ包囲戦。当時5歳だったハリロビッチ氏が戦時下の子どもたちに呼びかけて、1000にのぼる戦争の思い出を集めたのが本書です。その鮮烈な記憶を日本の読者に届けたいと、作家の角田光代さんが英文和訳を買って出てくださいました。

◆ゴマカシの全記録
 <2>山本太郎著『みんなが聞きたい 安倍総理への質問』(1512円)。
 安倍政権が安保法案の強行採決に至るまでの2015年「国会・安保特別委員会」での山本太郎氏の安倍総理らへの全質疑を収録した本です。詭弁(きべん)とゴマカシによる強行採決の過程が、山本氏の周到な質問によって浮き彫りにされます。これから日本がどこに進もうと、その動かぬ記録が本書に残されています。

◆留置場での9日間
 <3>冲方丁(うぶかたとう)著『冲方丁のこち留 こちら渋谷警察署留置場』(1296円)。
 本屋大賞作家・冲方丁さんは、2015年の8月、突然DV容疑で逮捕されます。身に覚えのない容疑で拘束された末、不起訴処分。その9日間の理不尽な扱いを、ユーモアたっぷりに描く留置場体験記です。司法システムの歪(ゆが)みや報道の欠点など、怒り、恐怖、笑い、希望が入り交じった読み物です。
◆筆者の横顔
 高田功(いさお)さん 過去の担当書は『オシムの言葉』『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』『A3』『中国残留孤児 70年の孤独』ほか。今読んでいる本は日野行介著『原発棄民』。「原発避難者を消滅させようとしている政府の実態に迫るルポ」
    −−「【東京エンタメ堂書店】集英社インターナショナル・高田功出版部部長 クルーニーの心意気で」、『東京新聞』2016年10月03日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/entamedo/list/CK2016100302000158.html


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