覚え書:「書評:流れ施餓鬼(せがき) 宇江敏勝 著」、『東京新聞』2016年10月23日(日)付。

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流れ施餓鬼(せがき) 宇江敏勝 著

2016年10月23日
 
◆喪失したもの訪ねる
[評者]川村邦光=民俗・宗教学者
 名著『山びとの記』の著者による小説集である。『山人伝』(二〇一一年)から始まったシリーズの六冊目が本書である。紀州熊野での林業を生業(なりわい)とする著者の暮らしを踏まえ、熊野の山河に生きた民衆の近代史と民俗誌を土台にした、六篇の作品が本書には収められている。
 表題作の「流れ施餓鬼」、戦中に肺結核で亡くなった若者の流れ施餓鬼がその恋人とともに追懐されている。続いて、早世した川遊びの友のありし日の姿を思い返しながら、山深い家郷が廃れていく様が物語られている。絶滅寸前のかわうそを捕獲した夜、事故が起こった日米開戦の翌日のことが語られる。連れ添いと子供を亡くした男と女が鮎(あゆ)のなれ寿司(ずし)を介して馴染(なじ)みになる話、かなりの発酵臭を放つ鮎のなれ寿司を初めて食べたのを、臭いとともに思い出した。そして、高度成長期を迎え、筏(いかだ)や運搬船・団平船(だんべぶね)の消えていく物語、「船や筏がのうなったら川もつまらんのう」と呟(つぶや)く、渡守の来歴と回顧譚(たん)がしっとりと語られる。
 眼前の景観が消滅・変貌し、何ものかが喪失され、それを回顧していく営み、それはノスタルジーではなく、弔いなのだろう。弔うは訪(とぶら)うを語源としている。弔いのためには、死者を、喪失したものを訪ねなければならない。そこに出会いがある。物静かな弔いの語り、それが本書の通奏低音として穏やかに流れている。
新宿書房・2376円)
 <うえ・としかつ> 1937年生まれ。作家。著書『森の語り部』『黄金色の夜』など。
◆もう1冊 
 宇江敏勝著『熊野川』(新宿書房)。伐採師、筏師、船師、材木商など熊野川で生きる人々から聞き取った物語。
    −−「書評:流れ施餓鬼(せがき) 宇江敏勝 著」、『東京新聞』2016年10月23日(日)付。

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