覚え書:「書評:日の沈む国から 政治・社会論集 加藤典洋 著」、『東京新聞』2016年10月23日(日)付。

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日の沈む国から 政治・社会論集 加藤典洋 著

2016年10月23日
 
◆世界の形 変えられる
[評者]瀬尾育生=詩人
 収録された文章が書かれた震災後の五年間は、著者によれば「日本という国がみるみる暗がりのなかに染まっていく」時間だった。題辞として引かれた神学者ニーバーの言葉が、深い意味を伝えている。−私たちにはもはや取り戻しようのないものがある。そのことを正しく心に受け止めることも、たしかに一つの勇気であろう。だが私たちにはまだ変えられることがある。いま必要なのは、この可能性に形を与える勇気である、と。
 この世界の限界と条件を深く受け止めた上で、このようでない世界のありようを提起すること。それが本書の基本姿勢「オルタナティブ」ということだ。
 「戦後」と「震災後」という二つの時間に挟まれた難関に著者は目を凝らす。対米従属、原爆と核、経済成長の神話…、あらゆる主題にかつてない問い方が必要だ。だが来るべき世界の輪郭は、いまだ私たちに「未知」のままなのである。
 本書の中心に置かれているのは、「インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ」に英語で連載されたコラムの日本語原文。「日の沈む国」でこそ研ぎ澄まされる、鋭い痛みのようなものがある。外国人を含む読者、という「外光」によって、この本がくっきりと浮かび上がらせるのは、この危機の感覚が「未知のオルタナティブ」にむかって激しく手を伸ばしている場面だ。
岩波書店・2160円)
 <かとう・のりひろ> 1948年生まれ。文芸評論家。著書『敗戦後論』『戦後入門』。
◆もう1冊 
 加藤典洋著『世界をわからないものに育てること−文学・思想論集』(岩波書店)。震災後の文学の言葉を考察。
    −−「書評:日の沈む国から 政治・社会論集 加藤典洋 著」、『東京新聞』2016年10月23日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2016102302000182.html



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日の沈む国から――政治・社会論集
加藤 典洋
岩波書店
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