覚え書:「書評:ブッダと法然 平岡 聡 著」、『東京新聞』2016年10月23日(日)付。

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ブッダ法然 平岡 聡 著  

2016年10月23日
 
◆覚りと救いの視点で対比
[評者]立川武蔵宗教学者国立民族学博物館名誉教授
 家の宗旨が真宗であり、浄土宗立の中学・高校に通ったこともあって、私には子供の頃、阿弥陀仏のおぼろげなイメージがあった。後にはブッダ阿弥陀がかなり異なった存在であることを知った。なぜこれほど違うのか。これは今日に至るまで私の疑問だ。
 この疑問を抱えながら、本書を読んだ。ブッダ法然の生涯と思想を対比させながら、二人が従来の価値観を覆らせて「パラダイムシフト」を行ったと述べている。
 ブッダは仏教の開祖、法然は仏教僧だが、両者の覚(さと)りや救いに至る道は異なる。この違いを、著者は大乗仏教のタイプの違いと考える。「大乗仏教にもさまざまなタイプがあるが、<覚り型>と<救い型>に大別することができる」と述べ、ブッダは自ら覚りを開いて苦から解脱し(自利)、法を説いて他者を解脱させた(利他)という。
 著者はこの事実を、「覚りを開いたブッダの立場から見るのか、あるいはブッダによって解脱させられた人間の立場から見るのか」というように立場(視座)の違いによるとする。前者は自ら修行し解脱する自力修行型に属し、後者は仏による救済にあずかる他力信仰型に属するという。
 だが、修行型と他力信仰型の違いは立場の違いによるのであろうか。ブッダの側から見ても救済型があり、仏に救われた人間の側から見た修行型もある。また救済型にあっても、衆生から仏へ、仏から衆生へという二方向が考えられる。救済型信仰は初期大乗までなかった。また、紀元前後までヒンズー教にもなかった。当時、仏教に新しい信仰形態が外部(西アジア)から加わったと思われる。阿弥陀信仰は仏教がなしえた世界的規模の総合なのだ。
 自力型と救済型の違いは大きな問題であり、今後も仏教徒の研究課題となろう。本書はこの難問に大きなスケールで取りくんでおり、日本仏教のパラダイムシフトに資するものと信ずる。
新潮新書・821円)
 <ひらおか・さとし> 1960年生まれ。京都文教大学長。著書『大乗経典の誕生』。
◆もう1冊 
 立川武蔵著『ブッダをたずねて』(集英社新書)。ブッダの生涯と初期仏教から大乗仏教密教まで、仏教の歴史と展開を平易に解説。
    −−「書評:ブッダ法然 平岡 聡 著」、『東京新聞』2016年10月23日(日)付。

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