覚え書:「書評:小さな出版社のつくり方 永江朗 著」、『朝日新聞』2016年11月06日(日)付。

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小さな出版社のつくり方 永江朗 著

2016年11月6日

◆ゼニカネ離れ楽しく
[評者]三浦衛=春風社社主
 売り上げをはじめ、いくつかの指標でピークだった新刊市場はこの二十年間、電子書籍のあおりも受け、右肩下がりに低迷を続けている。貧すれば鈍するで、中身よりもゼニカネの競争が激化しているのが現状だろう。出版業は絶滅危惧産業と囁(ささや)かれたりもしているが、そうした中にあって、時代の流れに逆行するかのように、新しく出版社を立ち上げた、いわば<へそ曲がり>な者たちがいる。その動機、情熱の元はどこにあるのか。
 鉄筆、羽鳥書店、共和国など、本書に登場する十一社十二人は、学校を卒業してすぐに起業したわけではない。会社をある程度、または深く経験し、ノウハウを知ったうえでの起業である。その意味では、会社(社会)から一旦(いったん)離れ、距離をもって社会と付き合っていると言えようか。知る者より好む者、好む者より楽しむ者に如かずという論語の言葉を体現している者たちだ。小さな出版社は本を作るのも売るのも、まるごと少人数でやるしかない。そこに難しさがあり、妙味もある。大手取次を介さない注文出荷制、セレクト書店の増加など、時代の変化に対応した取り組みは明るい兆しだ。
 なにかと閉塞(へいそく)感が増しているように感じられる昨今、ゼニカネはもちろん大切であるが、ゼニカネだけではない生き方に触れ、本の未来はけして暗くない気がした。風通しのいい本である。
 (猿江商會・1728円)
 <ながえ・あきら> 1958年生まれ。出版社勤務を経て、フリーライター
◆もう1冊
 石橋毅史著『まっ直ぐに本を売る』(苦楽堂)。書店との直取引で書店の利益を増やし返品率を減らした手法を紹介。
    −−「書評:小さな出版社のつくり方 永江朗 著」、『朝日新聞』2016年11月06日(日)付。

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小さな出版社のつくり方
永江 朗
猿江商會
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