覚え書:「書評:「その日暮らし」の人類学 小川さやか 著」、『朝日新聞』2016年11月06日(日)付。

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「その日暮らし」の人類学 小川さやか 著

2016年11月6日
 
◆心のまま タンザニア社会
[評者]栗原康=アナキズム研究家
 週の大半、家にいる。日夜、テレビに読書、睡眠だ。貧乏ヒマなしである。食わなきゃいけない分だけ仕事もする。ライターでも塾でもなんでもだ。カネさえあれば、友だちと酒を飲む。たまにすげえおもしろいはなしを聞いて、ガーン、いままでの自分はなんだったんだくらいに興奮させられる。もっと知りたい、やってみたい。そしたら、ひとつ、ふたつ仕事をやめてそれにのめりこむ。そのワクワクすることが金持ちをこらしめようとかだったら、ふらふらと外にでて、友人と悪だくみしたっていい。ボンバイエ!
 これはわたしや友人の日常だ。でも、いま似たような生活をしている人は多いんじゃないだろうか。残念ながら、日本でそうしていると、おまえら子どもかよ、マヌケかよといわれてしまうのだが。将来のことを考えて、いまはがまんして働くべきだ、定職に就こうと努力するべきだ、やりたいことはやっちゃいけないと…。うんざりだ。
 本書は、そんな日本の現状をふまえたうえで、タンザニア都市住民の生活を紹介する。タンザニアの若者は多くが定職につかない。飲食店、服屋、電気工、清掃作業員、大工、いろんな仕事を転々とする。毎日、朝から晩まで働いたりはしない。食えるだけのカネがあればいいのだから。金儲(かねもう)けでも遊びでも、心躍るなにかがあれば、仕事をやめてサッととびつく。失敗したら田舎にもどる。カネがなくてもなんとかなる。いろんな仕事を経験しているから、大抵のことは自分でできてしまうのだ。彼らはパラサイトを排除せず、借金の返済もいい加減だ。そんな社会を維持する人々を紹介している。
 本書を読むと、あらためて思わされる。将来のために、いまを犠牲にするのはもうやめよう。クソみたいな将来なんていらないんだ。希望はいらない、とりあえずやれ。仕事は仕事だ、いつでもやめろ。がまんがならねえ、子どもで上等。やりたいことしかやりたくない。世界マヌケ大反乱だ。
 (光文社新書・799円)
 <おがわ・さやか> 1978年生まれ。立命館大准教授・文化人類学、アフリカ研究。
◆もう1冊
 中谷文美・宇田川妙子編『仕事の人類学』(世界思想社)。世界各地の金銭だけに還元されない仕事のありようを調査し、紹介する。
    −−「書評:「その日暮らし」の人類学 小川さやか 著」、『朝日新聞』2016年11月06日(日)付。

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