覚え書:「書評:歌の子詩の子、折口信夫 持田叙子 著」、『東京新聞』2016年12月11日(日)付。

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歌の子詩の子、折口信夫 持田叙子 著

2016年12月11日
 
◆超時代の浪漫を探る
[評者]吉田文憲=詩人
 「まれびと」や「貴種流離譚」などの名辞で知られる詩人学者・折口信夫(しのぶ)(釈迢空)は、少年期、明治三十年代に盛りをきわめた新体詩・浪漫詩の強い影響を受けた。中学生の時に読んだ薄田泣菫(すすきだきゅうきん)『暮笛集(ぼてきしゅう)』をはじめ、土井晩翠島崎藤村与謝野鉄幹・晶子の「明星」、人と獣の融(と)けあう<半獣>の霊感から原始の生命の活気を説いた岩野泡鳴など、その後の折口の民俗学・古代学のモチーフは、みなこの時期に育まれている。本書は折口のその浪漫的な詩心のありかを跡づける。
 もう一つの柱は、同時期に盛行した紀行文の与えた影響である。少年折口は田山花袋の清新な紀行文『南船北馬』に出会う。花袋の紀行文に導かれての熊野への旅は、第一歌集『海やまのあひだ』の成立に深く関わっている。のみならず、この旅が後の沖縄への旅につながり、折口の海彼(かいひ)の異郷への想像力、学問と創作両面に大きな展開をもたらした。
 折口の「古代研究」とは「歌の歴史に文学と宗教の歴史を連接させて発想する、超時代の歌の学である」と述べる。折口は、浪漫詩に色濃く残る<古代>をつぎつぎ発見した。その<古代>と古語の力で、近代詩、近代文学に挑戦した。
 著者が描き出すのは、古典や古語を未来語とするラジカルな折口像である。それはそのまま従来の文学史の大胆な読み直しを迫るものでもある。
 (幻戯書房・3024円)
 <もちだ・のぶこ> 1959年生まれ。国学院大講師。著書『荷風へ、ようこそ』など。
◆もう1冊
 安藤礼二著『折口信夫』(講談社)。古代学や民俗学で知られる巨人の謎を解き明かし、思想の全体像に迫る作家論。
    −−「書評:歌の子詩の子、折口信夫 持田叙子 著」、『東京新聞』2016年12月11日(日)付。

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歌の子詩の子、折口信夫
持田 叙子
幻戯書房
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