覚え書:「書評:年月日 閻連科 著」、『東京新聞』2016年12月11日(日)付。

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年月日 閻連科 著

2016年12月11日
 
◆玉蜀黍の苗を守る話
[評者]藤井省三=東京大教授
 閻連科は恐ろしい作家である。たとえば中国版のチャタレー夫人を描いた『人民に奉仕する』は、エロスと政治の物語により読者を慄然(りつぜん)とさせて、中国では発禁となった。本作も民話的な語りで始まるものの、やがて凄惨(せいさん)にして、しかし希望ある結末へと展開していく。
 「年月はあぶられ…日々は燃えている炭のように張りつ」いていた「はるか大昔」、無人となった山村では先爺(じい)さんが僅(わず)かに残れるトウモロコシの苗一本を、雨乞いの生贄(いけにえ)となって失明した犬と共に守り育てている。苛酷な太陽の下、ネズミの大群と畑に播(ま)かれたまま発芽しないトウモロコシの種を奪い合い、遠い水場でオオカミの一群と対決する。四か月後、先爺さんの背丈よりも伸びたこの植物は、実を結ぶに肥料を必要とするが…。
 約四百六十年前に中南米から渡来したこの植物は、蜀黍(コーリャン)に似て蜀黍よりも高い収穫率で貧しい人々の命を救うがために、中国では「玉」の字が冠せられたのであろう。玉蜀黍(トウモロコシ)に献身する先爺の物語を、作者はメルヘンのように語る。
 乾ききった山村を舞台に、苗と盲犬と愛情あふれる対話を交わす先爺さんは、ヘミングウェイの『老人と海』のサンチャゴと同じく勇敢であり、この漁師よりも慈悲深い。本作はサン=テグジュペリの『星の王子さま』をも連想させる感動的な大人の童話である。
 (谷川毅訳、白水社・1836円)
 <えん・れんか> 1958年生まれ。中国の作家。著書『愉楽』『炸裂志』など。
◆もう1冊
 閻連科著『父を想う』(飯塚容訳・河出書房新社)。父のこと、貧困、文革などをめぐる中国人作家のエッセー集。
    −−「書評:年月日 閻連科 著」、『東京新聞』2016年12月11日(日)付。

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