覚え書:「『考える』営み、読み継がれ 『14歳からの哲学』池田晶子、没後10年」、『朝日新聞』2017年03月03日(金)付。

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「考える」営み、読み継がれ 『14歳からの哲学』池田晶子、没後10年
2017年3月3日

亡くなる1年前、中学生たちに「考えるとは何か」について語る池田=2006年2月、馬場磨貴氏撮影

 「哲学エッセー」というジャンルを確立した池田晶子が亡くなって10年。著作は読まれ続け、単行本が絶版にならない珍しい文筆家だ。遺族と編集者、企業人らでつくるNPO著作権を管理し、没後も本を刊行したり、新たな表現に挑む人に賞を与えたりして、池田の「考え」を次世代に伝えている。

 ■若者にもファン
 2007年2月、がんのため46歳の若狭で急逝した池田。アカデミックな世界からは距離を置き、専門用語を使わず、日常の言葉で「考える」営みをつづった。
 命日を5日後に控えた2月18日。東京・八重洲ブックセンター本店で、没後10年にちなむトークイベントがあった。池田とラジオ番組で対談したこともある詩人の小池昌代さんが登場。池田ファンら約60人が耳を傾けた。
 小池さんは「池田さんの肉体がこの世にあるときも、消えた後も池田さんの本をずっと読んできて、彼女と一貫して付き合っている気がする」。印象深い作品として、思索を詩のようにつづった『リマーク 1997−2007』を挙げ、「どこを開いても何かしらの啓示がある」と魅力を語った。
 会場には、没後にファンになった若者の姿も。千葉県の公務員比嘉裕盛さん(22)は、中学生の頃に『14歳からの哲学』を読んだ。「それまでの自分には『考える』ことが身近になかったので、ガツンと殴られたような衝撃を受けた」と話した。

 ■NPO著作権
 ベストセラー『14歳からの哲学』は累計43万部。いじめが社会問題になると、『14歳の君へ』が他人に流されない生き方を伝える本として注目された。また、中高年の読者が多い雑誌の連載も担当。『41歳からの哲学』などの本になった。
 池田が亡くなると、夫の伊藤實さん(59)はNPO法人「わたくし、つまりNobody」を設立。「著作物は遺族のものではなく、読者のもの」との考えから、著作権NPOに移した。いま会員は約100人。著作の版元7社のうち4社の編集者も名を連ね、1997年刊行の『睥睨するヘーゲル』から担当した講談社の見田葉子さんはその1人。当時、びっしりしと感想を書いた読者はがきが大量に戻ってきた。「池田さんの言葉には、詠む人の眼の曇りを晴らす独特の力がある。読者にすごく届いていると感じた」、著作は新しい読者を獲得し続け、絶版にはならないという。
 NPOはこれまで、未発表原稿を加えたり、作品を再構成したりした池田の新刊を14冊刊行した。著作権についおてNPOに助言している大井法子弁護士は「著作権と出版社は時に利害が対立するが、編集者が両方の立場で加わっている点が発展的」と語る。
 NPOは、ジャンルを問わず可能性を秘めた表現者を顕彰する「わたくし、つまりNobody賞」も運営する。副賞は100万円。こうした資金は本の印税のほか、会員の会費と寄付を充てている。
 唯一の法人会員、鳩サブレーで知られる製菓会社「豊島屋」(神奈川県鎌倉市)の久保田陽彦社長は、「世間のしがらみが何もないところで、新しい人を発掘していくことに賛同した」。第1回受賞者は川上未映子さんで、今年は伊藤野枝の評伝『村に火を付け、白痴になれ』などの著作がある栗原康さん。
 「池田の作品の閲読機会を維持することがNPOのミッション。池田の言葉を金科玉条にせず、批判的に受け止めて新しい表現活動を始める人を、私たちは待っている」と伊藤さんは言う。

 ■各地でイベント
 没後10年の節目にブックフェアやトークイベントが各地で開催中だ。版元7社が共同で全国の書店にフェア開催のための本の注文書を送ったところ、100点近くから希望があったという。
 東京新宿区の「ビームスジャパン」のBギャラリーでは今月5〜26日、四方の壁に池田の言葉を展示し、全著作29点を展示販売する。期間中の週末に、作家や落語家らを招いてトークイベントも行う。ビームスで文化時評を手がける藤木洋介さんは「流行を扱う会社だからこそ、池田さんが語る『不変』や『普遍』も絶対必要」と話す。
 4〜6月には、東京の紀伊國屋書店新宿本店と三省堂書店神保町本店、代官山蔦屋書店でトークイベントがある。詳細はNPO法人「わたくしの〜」のホームページ( https://www.nobody.or.jp/ )

■ 池田晶子の言葉
●君が自分を捨てて、無私の人であるほど、君は個性的な人になる。これは美しい逆説だ。真実だよ。『14歳からの哲学』
●自分を認めるためには他人に認めてもらう必要はない。(中略)人は、他人と出会うよりも先に、まず自分と出会っていなければならないのである。『41歳からの哲学』
●水がなければ魚は死ぬ。(中略)我々にとって言葉とはそういう存在、(中略)したがってそれは「生命」そのものなのですが、人はそうとは思っていない。『暮らしの哲学』
●たとえば、「悪いことはしてはいけないからしない」、これは道徳であり、「悪いことはしたくないからしない」、これが倫理である。『私とは何か』
(吉川一樹)
    −−「『考える』営み、読み継がれ 『14歳からの哲学』池田晶子、没後10年」、『朝日新聞』2017年03月03日(金)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12822666.html


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