覚え書:「悩んで読むか、読んで悩むか 仲良しでいるための息苦しさとは 水無田気流さん」、『朝日新聞』 2018年03月04日(日)付。
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悩んで読むか、読んで悩むか 仲良しでいるための息苦しさとは 水無田気流さん
悩んで読むか、読んで悩むか
仲良しでいるための息苦しさとは 水無田気流さん
2018年03月04日
水無田気流さん/みなした・きりう 70年生まれ。社会学者、詩人。『「居場所」のない男、「時間」がない女』など。
■相談 周りを気にせず本当のことを言いたい
私はあるアイドルを好きなのですが、周りの人に言ったことがありません。同じアイドルを好きな人が周りから少し否定的な目で見られていて、そんな目にあいたくないから隠してきました。そんな自分が今はとても嫌いです。どうしたら周りを気にせず本当のことを言えるでしょうか。好きなものは好き、と自分の気持ちにまっすぐになれる本や漫画はありますか。
(山口県、中学生 女性14歳)
■今週は水無田気流さんが回答します
「みんなと同じものを好きにならなければ許されない感」は、つらいですね。本来、好きなものはひとりひとり違って当たり前ですし、法律や規則などと違って、他人に強要はできないもの。それにもかかわらず、同じような服を着て、同じ音楽やテレビ番組を喜んで聴いたり見たりしなければならない……という「仲良しグループでいるための暗黙のルール」は、息苦しいものです。このつらさを友達に説明した上で、仲良くしたいと思うのも当然でしょう。
そんな微妙な気持ちに気づかせてくれる小説のお薦めは、魚住直子『非・バランス』です。ヒロインは相談者さまと同じ中学生で、小学生のときに感情の行き違いから仲良しグループだった子からいじめに遭い、以降友達を作ることをやめ、「クール」に人から距離を置くことを貫いています。でも、それでは心のバランスが取れず、精神的に追い詰められて危ういこともやってしまうのですが、ふと助けを求めた28歳の女性との交流をきっかけに、他人との関わり方が変わっていって……というお話です。登場人物がみな一面的ではなく、たとえば派手な茶髪女子グループに属す子も実は大きな葛藤を抱えていたりと、他人との距離感に悩んでいるところに繊細なリアリティーがあります。
では、本当につきぬけて好きなことしかしないと、学校生活はどうなるのか!?を追究した漫画のお薦めは、佐倉準『湯神くんには友達がいない』(1〜12巻、小学館・453〜463円)です。高校の野球部エースで成績優秀、普通なら学校のヒーローのはずの湯神くんですが、超マイペースで友達も必要とせず、周囲は振り回されてばかり。一方、ヒロインの綿貫さんは転校生でとにかく友達がほしい、でも周囲に気をつかいすぎて空回りしてばかりで……。湯神くんが悪気なく和を乱す様が絶妙で、日本の学校生活特有の過剰に空気を読み合う気風が浮き彫りになる描写が魅力的。友達と趣味が違ってどうしよう……などという悩みも、ほんの少し小さくなるのではないでしょうか。
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次回は作家の三浦しをんさんが答えます。悩み募集は受け付けを終了しました。
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■悩み募集は受け付けを終了しました。
石田さんと水無田さん以外の回答者は次の通り(敬称略)。荻上チキ(評論家)、斎藤環(精神科医)、壇蜜(タレント)、穂村弘(歌人)、三浦しをん(作家)、山本一力(作家)、吉田伸子(書評家)。
−−「悩んで読むか、読んで悩むか 仲良しでいるための息苦しさとは 水無田気流さん」、『朝日新聞』 2018年03月04日(日)付。
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http://book.asahi.com/reviews/column/2018030400016.html