日記:マイケル・ボーンスタイン&デビー・ボーンスタイン・ホリンスタート(森内薫訳)『4歳の僕はこうしてアウシュヴィッツから生還した』(NHK出版)


マイケル・ボーンスタイン&デビー・ボーンスタイン・ホリンスタート(森内薫訳)『4歳の僕はこうしてアウシュヴィッツから生還した』(NHK出版)戦慄を覚えつつ読了する。

ほとんど即座に殺された幼子がなぜ生き残ることができのたのか。本書はその筋道とその戦後を辿る労作。70年間語ろうとして、語れなかった思いに耳をはせたい。

「もしも私たち生存者がこのまま沈黙を続けていたら、声を上げるのは嘘つきとわからず屋だけになってしまう。私たち生存者は、過去の物語を伝えるために力を合わせなければいけないーー」。

注目したいのは著者の執筆の動機である。自分が証言しなければ、アウシュヴィッツがなかったことにされることへの恐怖である。この恐怖とは人類史全体への恐怖といっても過言ではない。

ホロコーストは嘘と主張するウェブサイトに、自分の写真が使われているのを発見した著者は沈黙を破る決意を固める。しかし、科学屋の著者には文章が書けない。そこでジャーナリストの娘が応え、共に歴史を辿り記録していくのだ。

「誰かがホロコーストについての嘘を語るなら、その100倍もの声で真実を語ればいい」

事実が揺らいでしまう現代を象徴するのが「ポスト・トゥルース」という言葉である。歴史修正主義など床屋政談の延長などと高を括ったしわ寄せが21世紀になって暴走しているのではあるまいか。

悪意のある嘘を見過ごすことからファシズムははじまる。





4歳の僕はこうしてアウシュヴィッツから生還した
マイケル・ボーンスタイン デビー・ボーンスタイン・ホリンスタート
NHK出版
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