覚え書:「みんなの広場:日中韓学生会議で感じたこと」、『毎日新聞』2012年11月2日(金)付。
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みんなの広場
日中韓学生会議で感じたこと
大学生 20(横浜市青葉区)
尖閣諸島や竹島をめぐり、日中韓の3国の関係が険悪化するが、お互いの国に同じ価値観を共有できる個人がいることを忘れてはならない。
9月、韓国で開かれた日中韓の学生会議に参加し、私が強く感じたことである。メディアによって私たちが受け取るイメージは、物事の一面しかとらえていない。フォーラムに参加する前日、中国で大規模な反日デモが起こり、フォーラムに参加することに危惧を覚えた。中国と日本の学生の間で対立が起こらないか懸念したからである。
しかし、フォーラムの中では、互いの文化や言語に関心を膨らませ、3国の平和を望む学生の姿がそこになった。日本車を破壊し、日本企業を襲撃するイメージだけが、中国人のすべてでない。
私たちがテレビや新聞を通して知る情報は事実であるが、一部であって全体ではない。過熱する3国の関係の中で、私たちにもとめられている冷静さはそれを知ることである。
−−「みんなの広場:日中韓学生会議で感じたこと」、『毎日新聞』2012年11月2日(金)付。
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覚え書:「大阪の神さん仏さん [著]釈徹宗・高島幸次 [評者]中島岳志」、『朝日新聞』2012年10月28日(日)付。
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大阪の神さん仏さん [著]釈徹宗・高島幸次
[評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史) [掲載]2012年10月28日
住吉大社、四天王寺、大阪天満宮、石山本願寺……。大阪という都市の形成には、思いのほか、社寺が深く関わっている。本書は、仏教・神道のスペシャリストであり、生粋の大阪人である二人が、縦横無尽に宗教都市・大阪を語り尽くす。
大阪は全国で二番目に寺の数が多く、中でも浄土真宗の寺が多い。釈は大阪商人の勤勉・節約といった商業倫理の源泉を、真宗の教えの中に見出(みいだ)す。
真宗は、しばしばプロテスタントと類似していると言われる。商いに従事し、職務を全うすることこそ凡夫の仏道と説いた蓮如の教えは、プロテスタンティズムの倫理が資本主義の精神を生み出したとするウェーバーのテーゼと重なる。実際、大阪では真宗の寺内町ネットワークが職業共同体を構成し、繊維業や製薬業などを発展させた。
大阪人の気質に宗教的基層を見出す議論は、ユニークかつスリリング。目から鱗(うろこ)の一冊だ。
◇
140B・1575円
−−「大阪の神さん仏さん [著]釈徹宗・高島幸次 [評者]中島岳志」、『朝日新聞』2012年10月28日(日)付。
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覚え書:「ヒトはなぜ神を信じるのか 信仰する本能 [著]ジェシー・ベリング [評者]保阪正康(ノンフィクション作家)」、『朝日新聞』2012年10月28日(日)付。
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ヒトはなぜ神を信じるのか 信仰する本能 [著]ジェシー・ベリング
[評者]保阪正康(ノンフィクション作家) [掲載]2012年10月28日
■神を論じる新世代の知性
宗教書ではない。「神」を求める心理(進化心理学という語が用いられている)を解きほぐそうというのが著者の意図である。本文中に「私たちはヒトという種の歴史において、個人的な神を不必要で、ありえないものにする重大な科学的議論に初めて直面する世代である」との一節を見いだし、緊張させられる。
1975年生まれのこの心理学研究者は、70年代後半からの学術用語「心の理論」をキーワードに文学、哲学、社会現象、歴史、さらには自らの周辺の人間像などを次々に語り続ける。神は人間心理のどのような状況のときにあらわれるのか、神の存在を納得させようとする自らの感情に抗する無神論者サルトルの生き方、進化論を説いたダーウィンが死の床で回心したと信じたがる人びと、傑出した哲学者や科学者の中に自然神学を支持する人がいることを「心の理論」で説く斬新さ、などの記述に魅(ひ)きつけられる。
神を論じる新世代の知性に新たな地平が開けてくる。
◇
鈴木光太郎訳、化学同人・2415円
−−「ヒトはなぜ神を信じるのか 信仰する本能 [著]ジェシー・ベリング [評者]保阪正康(ノンフィクション作家)」、『朝日新聞』2012年10月28日(日)付。
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