【覚え書】「絶えず幸福でありたいと願っている」人々

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 近代は、それが始まったときから、大胆さと不安との対位的な構造によって特徴づけられてきた。大胆さは、デカルトと彼の後継者が示した数学への熱狂によって最もよく説明され得る。大胆さは、自分自身の影、つまり恐怖を投げかける。パスカルの言葉で言えば、「この無限空間の永遠の静けさが、私をぞっとさせる」のである。近代世界の現世的無限性は、それとともに時間経験という近代的な概念をもたらす。再度パスカルを引用すえば、「われわれは、現在のことに関心がない」。それゆえ、「過去や現在は、われわれの手段である。未来だけが我々の目的なのである。だから、われわれは生きているのではなく、生きることを希望しているのだ」。パスカルはこうして、近代の中心テーマの一つ、すなわち現在の不在を導入する。このテーマは、歴史に関するカント的思弁に固有のものである。後で見るように、カントにとって歴史とは、パスカルの言葉で言えば「絶えず幸福でありたいと願っている」人々、したがって決してその目標に達することがないと言わざるを得ない人々が住まうところ、なのである。
    −−スタンレー・ローゼン(石崎嘉彦監訳)『政治学としての解釈学』ナカニシヤ出版、1998年。

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