絶望するしかない窮地に追いこまれても、目の前が暗くなって、魂が身体を離れるその瞬間まで、あきらめるな

※東京へ戻るため新千歳空港へ向かう快速エアポートから











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 チサキを助けるためには、罠がまっているとわかっている地へ、行かねばならない。
 恐ろしかった。母に教えられたように、<神を招く者>として、冷静であらねばと思ったが、胸の底にひろがっていくおびえを消すことはできなかった。
 がたがたふるえながら、バルサを見つめていると、バルサが肩に手を置いた。
 「わたしの養父が、いっていた。−−絶望するしかない窮地に追いこまれても、目の前が暗くなって、魂が身体を離れるその瞬間まで、あきらめるな。
 力を尽くしても報われないことはあるが、あきらめてしまえば、絶対に助からないのだからってね」
 その言葉よりも、バルサのおちついた声が、アスラのふるえをしずめてくれた。
    −−上橋菜穂子『神の守り人 上』新潮文庫、平成二十一年年、294頁。

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週末は晩冬を思わせるような北海道・札幌市にて勤務大学の通信教育部の対面授業(スクーリング)を土日の二日間、行ってきました。

ほんとうに肌寒い二泊三日になりましたが、16名の学生さんたちと、膝詰めで「倫理学とは何か」という部分を対話することができました。

まずはそのことに感謝しなければなりません。

ありがとうございました。

また、快く、宴を開催してくれましたが学友・親友の皆様、ほんとうにありがとうございました。

また消えがたい思い出のひとつひとつを積み重ねることができたと思います。

倫理学とは道徳と異なり、初めから「〜せよ」とはいいませんし、その根拠を示してくれはしません。どちらかといえば「〜せよ」の根拠を、全体との有機的な連関を保持した状態で自分で考えていく学問になります。

ですから、「なぜ人を殺してはいけないのか」「なぜ嘘をついてはいけないのか」は教材にも書かれておりませんし、教員が分かり易く示すものでもありません。

しかし、社会と歴史に耳を傾けながら、なぜそうなのか自分で考え、ほかのひととそれを摺り合わせていくところにその醍醐味があります。

そうした考えるひとつのきっかけになったとすれば、望外の喜びであります。

確かに社会もめちゃくちゃで、いろいろと頭にくることはあります。

しかし、あきらめずに、一人の人間として誠実に生きていく……。
そのことができれば、そのひとは、倫理学をしはじめたことになることだけは否定できません。

人生に勝て!などと偉そうなことはいいませんし、いいたくすらありません。

しかし、自分自身の道を迷わず歩き続けるひとに、自分自身も含め、ひとりひとりが成長していく、そうした契機になればと思う次第です。

ともあれ、二日間、皆様ありがとうございました。

北海道はようやくタンポポが咲き誇り、そして桜の花が咲き始めたところです。




⇒ ココログ版 絶望するしかない窮地に追いこまれても、目の前が暗くなって、魂が身体を離れるその瞬間まで、あきらめるな: Essais d'herméneutique


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