明るかったですね。とにかく天下国家の仕事をしているんですから


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取締りをすることの自負
 一九三〇(昭和五年)九月の大阪府特高課『特高時報』に寄稿した小橋正男は、社会主義の取締りについて「正面から議論で行くことは禁物で」、「搦手から彼らの揚足を取るに限る」と指導を受けてきたことに疑問や不満をもっていた。しかし、経済学者山本勝市のマルクス批判の著書『マルクシズムを中心として』を読むことで、「特高の使命が単に「取締」のために役立つのみでなく、むしろ、「社会的啓蒙」のために、充分の存在活を見出す」ことができたという。
 宮下弘が語る「明るかったですね。とにかく天下国家の仕事をしているんですから」(『特高の回想』)という特高課の活気も、特高警察のなかに、遂行する責務への自負が強かったことを示している。その自負を助長したのは「国家の警察」「天皇の警察」という意識だけではなかった。

立身栄達の道
 特高警察はその「特別」性ゆえに警察全体のなかでも主流に位置し、花形の部門であった。一般警察官の特高警察への移動は「抜擢」とみられた。(中略)
 特高警察部門で頭角をあらわすと、さらなる立身出世の道が開けた。口頭試験合格組のエリート官僚は別にして、“たたき上げ組”をみると、やはり毛利基はその典型である。警視庁特高課労働係の次席警部から労働係長、特高係長、特高課長(警視)を経て、佐賀県と埼玉県の警察部長にまで上昇する。
    荻野富士夫『特高警察』岩波新書、2012年、93−95頁。

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このところ、人間の内心の自由を制限する、しかもそれは職務命令だから反対するな式の法案が丁寧な審議もなく次々と成立する様には恐怖を感じてしまうのは、僕ひとりではないと思う。

ちょうど、戦前・戦中の思想弾圧の先兵となった『特高警察』に関する文献を読んでいたせいかもしれない。杞憂であればそれでよいのですが、どうも取り越し苦労で終わる気配を感じることができない。

ふり返ってみれば、「ひとたび制定された治安維持法がその使い手である取締り当局の恣意的運用にまかされていく」のが歴史の歩みだし、その最前線の現場では、「明るかったですね。とにかく天下国家の仕事をしているんですから」という活気や遂行する責務への自負があたまをもたげてくるのは必然でしょう。

いったい、だれが得をするのか。
いったい、それで本当にまもるべきもの……例えば著作権をはじめとする様々な権利……をまもることができるのか。
いったい、思惑はどこにあるのか。

冷静に議論することもなく、コッソリと進行していく様に、注視つづけるしかあるまいか。








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