書評:坂本義和『人間と国家 ある政治学徒の回想』岩波新書、2011年。




坂本義和『人間と国家 ある政治学徒の回想』岩波新書、読了。戦後日本の進歩的知識人の一人で国際政治学をリードしてきた著者の、上下二巻にわたる自伝的回想。中国で生まれ戦中日本で教育を受けた氏は、国家とどう向き合うかが課題だった。その格闘の思想形成歩みが丁寧に叙述されている。★4

坂本氏の父は上海の東亜同文書院の教授。少年時代は様々な外国人に囲まれて暮らした。氏の名前も「義和団」に由来するという。中国民衆への愛着と軍部に対する嫌悪感を暮らしのなかで身につける。ここに氏の「国家権力の脱神話化」の原点が存在する。

高坂正堯氏との論争についての言及も。坂本氏の「中立日本の防衛構想」(『世界』)に対して高坂氏「現実主義者の平和論」(中央公論)でもって応じた。この対照軸が戦後の外交論のひとつとなったことは有名である。

両者の話し合いは、一歩手前で中断されたというが、面談は実際にあったようだ。東大近くの喫茶店で話し合いを3時間したそうな。高坂氏が空襲を経験していない点が、坂本氏の上海での壮絶な戦争体験と対比的(負傷兵の死に行く光景)。両者の違いは戦争体験に由来するといってもよい。

その人間がどういう経緯でなにがしかの思想を懐くのか。
著者の立場に正反あろうかとは思う。しかしながら、そうした人間の経緯を学ぶことのできる意味では、素晴らしい自伝ではないだろうか。




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