覚え書:「今週の本棚:『メディア文化とジェンダーの政治学』著者=田中東子さん」、『毎日新聞』2012年9月23日(日)付。






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メディア文化とジェンダー政治学
世界思想社・2625円
著者 田中東子さん

 「フェミニズム」という響きに一歩引いてしまう20〜30代女性は少なくない。自身も学生時代から持っていたというフェミニズムへの違和感を出発点に、1990年代後半から現在までの研究成果をまとめたのが本書だ。「強い女性のイメージを打ち出した70年代のラディカル・フェミニズム(第二波フェミニズム)の功績は大きい。一方で、グローバル化や貧富の差の拡大が進む中で、そのモデルが古くなっている、という問題意識がありました」
 第二波は、家父長制の犠牲者としての女性達の解放を訴える制度的、政治的な側面が強かった。対して自身が共感する90年代以降の「第三波フェミニズム」は、ポピュラー文化の生産者としてさまざまな活動をする女性達の文化実践を研究対象としてきました。同時期に日本に広まった「カルチュラル・スタディーズ」ともかかわりが深い。
 女性たち自身による表現や発信に重点を置く。ネット環境の変化やコミュニケーションに与える影響を調べるため、アニメのキャラクターの衣装を身につけてイベントに参加するコスプレや、サッカーファンの女性達の活動などを実証的に調査してきた。自分のコスプレ写真をアーカイブ化して多くのファンを獲得したり、ツイッターなどを利用してイベントに人を集めたり……。そうしたさまざまな活動を、参加者の声もまじえて分析している。
 今日女性が解放され金銭的、時間的な余裕を手にした結果、「自由で充実しているけれど、『立派な消費者』として商業主義の搾取の対象になっている。他方で非正規雇用や貧困の問題も深刻」と指摘する。コスプレの調査から浮かび上がったのは、参加者に共通している、既製品よりも手作りの衣装に価値を見出す精神。消費のサイクルに収まらず独自の文化を生産していく活動に、資本主義に抗(あらが)う文化の可能性を感じたという。
 「文化を消費しながらも自ら生産もしていく。資本主義とのせめぎあいの中から新しい考え方や生き方が生まれてくると信じています」文・手塚さや香 写真・武市公孝
    −−「今週の本棚:『メディア文化とジェンダー政治学』著者=田中東子さん」、『毎日新聞』2012年9月23日(日)付。

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