覚え書:「今週の本棚:『私とは何か』=平野啓一郎著」、『毎日新聞』2012年10月28日(日)付。
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今週の本棚:『私とは何か』
平野啓一郎著
(講談社現代新書・777円)
著者が近未来長編小説『ドーン』で提示した「分人主義」という概念をかみくだいたのが、この本だ。
〈本書の目的は、人間の基本単位を考え直すことである。〉と冒頭にある通り、社会を構成する最小単位と考えられている「個人」をさらに分割し「分人(ぶんじん)」という単位でものごとをとらえることの必要性を説く。
〈一人の人間の中には、複数の分人が存在している。……あなたという人間は、これらの分人の集合体である。〉というのが分人主義。「相手によってキャラを使い分けるのは当たり前」という反論は織り込み済み。著者が問題視しているのは、「本当の自分」があるという思い込みが多くの人にとって生きづらい社会を生んでいるという構造なのだ。
その時どきの環境によって分人の比率は変化し、その構成比率が個性になるという指摘は、自身の経験がいくつも語られて説得力がある。
芥川賞受賞時の「難解な小説」のイメージが強い著者だが、死者への思いをめぐる哲学的考察から現代のコミュニティーやいじめ問題への言及に至るまで、新書という体裁でシンプルにまとめている。(さ)
−−「今週の本棚:『私とは何か』=平野啓一郎著」、『毎日新聞』2012年10月28日(日)付。
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私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)
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ドーン (講談社文庫)
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