認識論

拙文:「読書 大賀祐樹『希望の思想 プラグマティズム入門』筑摩選書 連帯と共生への可能性を開く」、『聖教新聞』2015年03月28日(土)付。

- 読書 希望の思想 プラグマティズム入門 大賀祐樹 著連帯と共生への可能性を開く 現代思想の諸潮流の中でプラグマティズムほど不当な扱いを受けたものはない。実用主義の訳語は早計すぎて“浅い”という印象をあたえる。著者はパース、ジェイムズ、デューイと…

覚え書:「論壇時評:孤独な本 記憶の主人になるために 作家・高橋源一郎」、『朝日新聞』2014年11月27日(木)付。

- 論壇時評:孤独な本 記憶の主人になるために 作家・高橋源一郎 2014年11月27日 (写真キャプション)高橋源一郎さん=小玉重隆撮影 去年、韓国で出版され、「元慰安婦の方たちの名誉を毀損(きそん)した」として、提訴・告訴された、朴裕河(パクユハ)の…

日記:先験的に中立や公正が実在していると素朴に考えていることの「きつさ」

- 衆院選:自民、細かに「公平」要請 選挙番組構成でTV各局に 毎日新聞 2014年11月28日 東京朝刊 自民党がNHKと在京民放テレビ局に対し、選挙報道の公平中立などを求める要望書を渡していたことが27日分かった。街頭インタビューの集め方など、番組の…

拙文:「読書:井上順孝編『21世紀の宗教研究』平凡社 刺激に富む先端科学との邂逅」、『聖教新聞』2014年11月22日(土)付。

- 読書 21世紀の宗教研究 井上順孝編 刺激に富む先端科学との邂逅 「科学的」という評価が合理的な価値あるものと見なされる現代。その対極に位置するのが宗教だ。宗教を迷信と捉えず、「宗教とは何か」を科学的に探究するのが宗教学の出発だったが、学の…

日記:「未来はよくなる」し「未来をよくしていこう」と思っていたけど……1995年という問題。

こないだ若い衆と呑んだとき話題になったのが、村上春樹さんが、“「孤絶」超え、理想主義へ」”(*1)を語ったこと。思い出すと、春樹さんではないけど、高校3年の時に、ベルリンの壁が崩壊したボクにも「未来はよくなる」というか「よくしていこう」と思…

拙文:「読書 社会はなぜ左と右にわかれるのか ジョナサン・ハイト著」、『聖教新聞』2014年07月26日(土)付。

- 読書 社会はなぜ左と右にわかれるのか ジョナサン・ハイト著 高橋洋訳まず直観に基づく道徳的判断 道徳的判断を下す際、それは直観ではなく理性によって導かれると、普段、私たちは考えるが、実際には逆らしい。 本書は膨大な心理実験から「まず直観、それ…

書評:松田美佐『うわさとは何か ネットで変容する「最も古いメディア』中公新書、2014年。

松田美佐『うわさとは何か ネットで変容する「最も古いメディア』中公新書、読了。「根も葉もない」とも「火のないところに煙は立たぬ」と両義性をもって扱われるのがうわさ。対極の受容ながらどこか今ひとつわかりにくい。本書は古典的研究を踏まえた上で「…

書評:小森陽一『レイシズム』岩波書店、2006年。

小森陽一『レイシズム』岩波書店、読了。21世紀に入ってより強化されているレイシズム(人種差別主義)。本書は現代におけるレイシズムを自他の「差異」「優劣」をねつ造するメカニズムと捉え、差別意識の発生に言語システムが深く関わっていることを明ら…

書評:野家啓一『科学の解釈学』講談社学術文庫、2013年。

野家啓一『科学の解釈学』講談社学術文庫、読了。科学は果たして万能か。信仰にも似た科学へ信頼は諸学の隷属化すら招いている。本書は、その対極の反科学主義を排しながら、「科学を御神体として後生大事に抱え込む哲学的傾向に見られるこうした『俗悪さ』…

書評:ラッセル・スタナード(新田英雄訳)『相対性理論 常識への挑戦』丸善出版、2013年。

ラッセル・スタナード『相対性理論 常識への挑戦』丸善出版、読了。本書はオックスフォード大学出版局より刊行のVery Short Introductionシリーズの一冊。特殊相対性理論と一般相対性論を中学生でもわかるように分かり易く解説することに挑戦した一冊(新書…

覚え書:「記憶をコントロールする 分子脳科学の挑戦 [著]井ノ口馨 [評者]福岡伸一」、『朝日新聞』2013年06月30日(日)付。

- 記憶をコントロールする 分子脳科学の挑戦 [著]井ノ口馨 [評者]福岡伸一(青山学院大学教授・生物学) [掲載]2013年06月30日 [ジャンル]科学・生物 ■どう作られ、保持されるのか 「記憶は死に対する部分的な勝利である」とはカズオ・イシグロの名言である。…

覚え書:「書評:量子革命 アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突 [著]マンジット・クマール [評者]角幡唯介」、『朝日新聞』2013年06月09日(日)付。

- 量子革命 アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突 [著]マンジット・クマール [評者]角幡唯介(ノンフィクション作家・探検家) [掲載]2013年06月09日 [ジャンル]科学・生物 著者:マンジット・クマール、青木薫 出版社:新潮社 価格:¥ 2,940Amazon.…

覚え書:「書評:脳のなかの天使 [著]V・S・ラマチャンドラン [評者]福岡伸一」、『朝日新聞』2013年06月02日(日)付。

- 脳のなかの天使 [著]V・S・ラマチャンドラン [評者]福岡伸一(青山学院大学教授・生物学) [掲載]2013年06月02日 [ジャンル]科学・生物 ■なぜ美を感じる? ヒトの特性に迫る ルリボシカミキリの青を、私は限りなく美しいと感じるが、ルリボシカミキリ自身…

覚え書:「書評:正直シグナル 非言語コミュニケーションの科学 [著]アレックス(サンディ)・ペントランド [評者]保阪正康」、『朝日新聞』2013年05月26日(日)付。

- 正直シグナル 非言語コミュニケーションの科学 [著]アレックス(サンディ)・ペントランド [評者]保阪正康(ノンフィクション作家) [掲載]2013年05月26日 [ジャンル]科学・生物 ■無意識の行動に表れる意図 本書を読み進むうちに、この書のテーマを意味する…

書評:西垣通『集合知とは何か ネット時代の「知」のゆくえ』中公新書、2013年。

西垣通『集合知とは何か ネット時代の「知」のゆくえ』中公新書、読了。ここ10数年のコンピュータの変化とは、人間に代わっての高速な処理から相互通信性にシフトしつつあることだ。本書は「〜2.0」のフレーズに代表されるインターネットを初めとする「…

覚え書:「手話からみた言語の起源 [著]高田英一 [評者]いとうせいこう」、『朝日新聞』2013年03月24日(日)付。

- 手話からみた言語の起源 [著]高田英一 [評者]いとうせいこう(作家・クリエーター) [掲載]2013年03月24日 [ジャンル]医学・福祉■言語は身振りから始まった? 手話を使う人が身振りと一緒に音声でしゃべることがある。二つの言語の同時使用を「シムコム」と…

研究ノート:「ハイゼンベルクの不確定性原理」についてのひとつのまとめかた

- ハイゼンベルクの不確定性原理 不確定性原理とは、一言でいえば、「この世で人間にわかることには限界がある」というものです。主体が客体を正確に観測できるという、近代科学の大前提が成り立たないことを唱えた、一種の思考実験でした。 科学において、…

覚え書:「今週の本棚:三浦雅士・評 『集合知とは何か』=西垣通・著」、『毎日新聞』2013年03月03日(日)付。

- 今週の本棚:三浦雅士・評 『集合知とは何か』=西垣通・著毎日新聞 2013年03月03日 東京朝刊 (中公新書・861円) ◇ネット社会を考える貴重な一冊 ここ十数年のメディア環境の変貌ははなはだしい。フェイスブックやツイッターなどといったソーシャルメ…

ちがっているということと反対であるということがたえず混同される

- 日本ではちがっているということと反対であるということがたえず混同されるでしょう。たとえばノン・コミュニストという範疇がなくて、同伴者か然らずんば反共というふうに区別する。これが組織論に現われると丸抱え主義になり、既存のものとちがった組織…

覚え書:「みんなの広場 『無知の知』を友人関係や外交に」、『毎日新聞』2013年02月20日(水)付。

- みんなの広場 「無知の知」を友人関係や外交に 高校生 17(東京都清瀬市) 先哲ソクラテスの「無知の知」という言葉を学校で知った。この言葉は、自分の知恵が完全でないことに気がついている、言い換えれば無知であることを知っている点において、知恵者…

書評:南原繁研究会編『平和か戦争か 南原繁の学問と思想』to be出版、2008年。

- 南原は、その生涯において一度だけバルトと出会っています。一九五二年にヨーロッパを回ったとき、ドイツでは歴史家フリードリヒ・マイネッケやヒトラーと闘ったバルトの盟友マルティン・ニーメラーなどと出会い、とても共感を覚えています。 「私がドイツ…

覚え書:「今週の本棚:気になる科学 元村有希子・著」、『毎日新聞』2013年02月10日(日)付。

- 今週の本棚:気になる科学 元村有希子著 (毎日新聞社・1575円) 毎日新聞社科学環境部といえば、思い出すのは日本の科学と科学者の現実を生々しく追って私たち科学者にはちょっと切なくもあった、『理系白書』である。その著者たる毎日新聞科学環境部…

ひたすら対立する現実という幻想は、人間を極端に矮小化させ、主役として考える自由を奪ってきたのである

- カデル・ミアはムスリムの犠牲者として死亡したが、彼はまた困難な時代に家族が生き延びるために、わずかな仕事と少しばかりのお金を必死に求める働き口のない貧しい労働者として死んだとも言える。どんな共同体でも、最下層の人びとがこのような暴動でい…

「私が私である」ことは、「私」以外のものによってしか証明されない。

- 先日わたしは、ある高名な画家の手になる詩を何編か読んだが、独創的なもので、ありきたりのものではなかった。たとい主題が何であっても、このような詩句のなかに、魂はいつも何かの戒めを聞きとるものだ。これらの詩句がそそぎこむ情感は、詩句にふくま…

人間は、定点観測をしていないと、つまりその前を知らないと、それがどんなふうに変わったのかということも分からない

- 人間は、定点観測をしていないと、つまりその前を知らないと、それがどんなふうに変わったのかということも分からないわけです。前を知らないと、破壊の後のすさまじい被害の状況を見ることしかできない。僕は、自分の知っている土地が、震災後の歳月の中…

覚え書:「今週の本棚:中村桂子・評 『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』=ガイ・ドイッチャー著」、『毎日新聞』2013年01月13日(日)付。

- 今週の本棚:中村桂子・評 『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』=ガイ・ドイッチャー著 (インターシフト・2520円) ◇言語と思考の関係を科学の目で解き明かす 言語は思考に影響を与えるのだろうか。さまざまな言語に接することが多くなった昨今…

書評:柴原三貴子『ムスリムの女たちのインド 増補版』木犀社、2012年。

- 幼いころ両親を亡くし親戚の家で育った夫と結婚したチャビーラおばさんは、舅や姑との関係に苦労しなかった代わりに、夫が親から受け継ぐ農地も住む家もなかった。マクドゥミアを家に建てるだけの小さな土地を買い、ボンベイで働く夫の帰りを待ちながら、…

覚え書:「今週の本棚:養老孟司・評 『ひとの目、驚異の進化』=マーク・チャンギージー著」、『毎日新聞』2013年01月06日(日)付。

- 今週の本棚:養老孟司・評 『ひとの目、驚異の進化』=マーク・チャンギージー著 (インターシフト・1995円) ◇「見ること」の常識を変えて「自ら」を知る ソクラテスは「汝(なんじ)、自らを知れ」といったという。科学の世界はものを考える人たちの…

文化による単純な一般化は、人びとの考えを固定化するうえできわめて効果を発揮する

- 世界の人びとは−−おそらく必要以上に断固として−−文化は重要だという結論に達している。世界の人びとは明らかに正しい。文化はたしかに重要だ。しかし、本当に問われるべき問題は、「文化はどのように重要なのか?」なのである。前の二つの章で論じたよう…

覚え書:「書評:『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』 ガイ・ドイッチャー著」、『読売新聞』2012年12月16日(日)付。

- 書評:『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』 ガイ・ドイッチャー著評・池谷裕二(脳研究者・東京大准教授) 心を表す言語の妙味 良質な本だ。言語学者である著者が、新旧数多の文献を引用しながら、私たちの母語がどう「心」に輪郭を彫り込むかを解説…