覚え書:「異論反論 戦争を子供たちに伝えるのは困難です=城戸久枝」、『毎日新聞』2013年02月13日(水)付。


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異論反論 戦争を子供たちに伝えるのは困難です
寄稿 城戸久枝

当事者の声を聞かせたい

 この数年間、「戦争や中国残留孤児のことを伝えるために私に何ができるのか」をテーマに据えて活動してきた。講演などで家族の歴史を知るようにすすめると、「家族と向き合うのは難しく、城戸さんのようにはなかなかできない」と切り捨てられることもあったが、思いが伝わったときの喜びも大きかった。
 大阪で講演した際、在日韓国人3世の女性に声をかけていただいた。彼女は「私の父親も自分のことを本に書きたいと言っているんです。娘として、手伝ってあげなければと思いました」と、込み上げる涙を抑えながら話してくれた。

子供たちの知らない歴史
まずは伝えることが大切

 子供が生まれてからは、特に、子供たちにどう歴史について伝えていくべきかを考えるようになった。
 昨年末には、東京都立小山台高校定時制で開かれた「ふれあいスクール」に呼んでいただいた。同校の定時制には、日本人以外に、外国出身、親が外国出身、あるいは海外からの帰国生など、15カ国につながる生徒200人が通学している。中国残留孤児2世で高校の講師を務める先生と私との対談式で、講演をすることになった。
 同じ中国残留孤児2世といっても、日本生まれの私と、18歳で親に連れられて帰国した先生は全く立場が違う。彼女は言葉の壁を乗り越え、教員免許を取得して講師として長くつとめている。自分にとって祖国はどこなのか、自分が何人なのか……さまざまな思いを抱えながらひたむきに日本社会で生き抜いてきた彼女は、夢をもって頑張ってほしいと生徒たちに語りかけた。
 多様なルーツをもつ生徒たちには、私たちの話がどのように伝わったのかはわからない。中国出身の生徒の中には、複雑な感情を抱きつつ、話を聞いた人もいたようだ。
 事後アンケートによると、中国残留孤児の存在について、8割が「知らなかった」と記していた。この数字に、知っている人が少ないとは決して思わない。それよりも、この機会に、今まで知らなかった生徒たちがまず、知ることが大切なのだと思う。ある生徒が、このような感想を書いてくれた。
 「知ろう、知りたい。この気持ちってすごく大事だなと思った。原動力の源になるし、ただ、やらされているよりは自ら進んで取り組んでいる分、やる気が全く違ってくるんだなと感じた」
 ある中学校の先生から「教育の場で戦争を取り上げるのは、さまざまな立場があり簡単ではない」と聞いたことがある。小山台高校の取り組みのように、当事者たちに声を直接子供たちに伝える機会を増やしていくことが必要だと感じた。すぐに理解することは難しいかもしれないが、子供たちの心のどこかにきっと残るはずだ。そしていつか彼らが大人になったとき、その声を思い出す日がくるかも知れない。
きど・ひさえ ノンフィクションライター。「確定申告の時期がやってきた。青色申告を始めて7年。毎年、地道に準備しておけばよかったと後悔しているにもかかわらず、今年もまだ作業が始まっていない。ラストスパートにかけています」
    −−「異論反論 戦争を子供たちに伝えるのは困難です=城戸久枝」、『毎日新聞』2013年02月13日(水)付。

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