覚え書:「書評:『暮らしのイギリス史』 ルーシー・ワースリー著 評・平松洋子」、『読売新聞』2013年2月24日(日)付。
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『暮らしのイギリス史』 ルーシー・ワースリー著
評・平松洋子(エッセイスト)
チューダー朝の男性の性的魅力はふくらはぎ(下着)。十七世紀、妊娠するには女性のオーガズムが必要不可欠とされた(セックス)。裕福な患者が貧困者から歯を譲り受け、口から口への移植が大流行(歯磨き)。
肉を焼くために、特別に品種改良された焼き串回し犬が活躍(料理)。朝食は賃金労働者の食事とみなされ、座って食べるのは男の沽券こけんにかかわった(食事時間)……全364ページ、中世以降あらゆる階層の人々が繰り広げるイギリス生活史は、おや、まあ、へえ! の連続。住まいの細部事情を覗のぞき見ながら、わたしは、過去に生きた人々が間近で動き回るような親近感と好奇心を覚えた。
著者はイギリスの主要な王宮を管理する組織の主席学芸員。その立場を生かした資料渉猟に止とどまらず、尿を利用するチューダー朝の染み抜きを試したり、秘薬を飲んでみたり、実体験の裏づけを厭いとわない。本書にリアルな生活臭が色濃いのは、身体と歴史との関係性を見落とすまいとする視点が通底しているからだ。図版も多数収録。眠れない夜の読書にも、きっと楽しい。中島俊郎、玉井史絵訳。(NTT出版、3600円)
−−「書評:『暮らしのイギリス史』 ルーシー・ワースリー著 評・平松洋子」、『読売新聞』2013年2月24日(日)付。
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http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20130219-OYT8T01024.htm
暮らしのイギリス史―王侯から庶民まで
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