覚え書:「書評:鉄条網の歴史―自然・人間・戦争を変貌させた負の大発明 [著]石弘之、石紀美子 [評者]荒俣宏(作家)」、『朝日新聞』2013年04月14日(日)付。




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鉄条網の歴史―自然・人間・戦争を変貌させた負の大発明 [著]石弘之、石紀美子
[評者]荒俣宏(作家)  [掲載]2013年04月14日   [ジャンル]歴史 



■家畜用から新たな環境の囲いへ

 鉄条網は西部劇を終わらせた。その発明者グリッデンが後妻に「花壇が家畜に荒らされるので、何とかして」と頼まれたことから誕生したこの家畜フェンスは、家畜を制御するカウボーイを失職させた。辺境で大牧場を拓(ひら)いた牧場主たちと、後から入植してきた開拓農民も敵対し、農地と家畜を守るのにガンマンと鉄条網を持ちだし、19世紀末にはジョンソン郡戦争のような衝突となる。名作西部劇「シェーン」も、この時代と場所の話である。
 家畜の侵入と脱走を防ぐ鉄条網は、次に人間をも束縛する。戦場や強制収容所では人間が鉄条網に囲い込まれるが、ここから現代の環境問題へ飛躍するのが本書の目論見(もくろみ)だ。鉄条網で人を遮断したチェルノブイリ朝鮮半島軍事境界線では、逆に自然が復活し動物が異常に殖えだす。立ち入りできなくなった福島原発事故区域も含め、鉄条網が創り出した新たな環境の未来がまだ読めない。鉄条網の内側は深刻さを増している。
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 洋泉社・2520円
    −−「書評:鉄条網の歴史―自然・人間・戦争を変貌させた負の大発明 [著]石弘之、石紀美子 [評者]荒俣宏(作家)」、『朝日新聞』2013年04月14日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2013041400014.html






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鉄条網の歴史 ~自然・人間・戦争を変貌させた負の大発明
石 弘之 石紀美子
洋泉社
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