覚え書:「今週の本棚:古典を失った大学 近代性の危機と教養の行方=藤本夕衣・著」、『毎日新聞』2013年04月21日(日)付。




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今週の本棚:古典を失った大学 近代性の危機と教養の行方
藤本夕衣・著
(NTT出版・3990円)

 かつては世間離れした場として容認されていた大学にも、「改革」の波が打ち寄せる。予算の効率配分、多様なニーズへの対応、キャリア教育等。東大でも、語学学校を目指すかのような国際化が進む。
 それで良いのか? 本書はそうした改革論とは正反対の視線で大学を見直す。「古典をどう理解するか」を軸に、思想の次元で大学と民主主義の関係を問う。登場人物はR・ローティとA・ブルーム。哲学と大学をめぐる論争が、丁々発止と繰り広げられる。
 大学が危機にある理由に、普遍的原理なるものが追究しえなくなったポストモダン状況をとも挙げる。そこからブルームは、実証データや歴史的事実に拘泥して価値の更新を目指さない「アメリカン・スタイルのニヒリズム」が蔓延したと見る。ローティは、差異を生む権力の批判に傾倒する「文化左翼」や論理偏重の分析哲学など、博識だが傍観者的論調が生まれたという。
 古典を通じ古代に目を向けるロマンを感じ取ろう。古典を読む世間離れの期間こそが大学だ。浅い改革とは一線を画す、熱い思想の書。(空)
    −−「今週の本棚:古典を失った大学 近代性の危機と教養の行方=藤本夕衣・著」、『毎日新聞』2013年04月21日(日)付。

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