覚え書:「書評:日本人は災害からどう復興したか 渡辺尚志著」、『東京新聞』2013年4月28日(日)付。




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日本人は災害からどう復興したか 渡辺 尚志 著

2013年4月28日

[評者] 祖田 修 京都大名誉教授、農業経済学。著書『コメを考える』など。
◆増大する人災要素を注視
 二年前の3・11は、私たちに驚天動地の自然の恐ろしさを見せつけた。
 この十年ほどの間だけでも、世界各地で巨大な被害をもたらす地震津波・洪水・凶作・噴火が次々と起こった。地球環境の悪化は、天災の頻度と大きさを増幅しているように見える。私は人災要素の増大という視点からの災害史研究を、以前から切に期待していたが、ようやくその本格的な足掛かりとなる書物が現れたと言えよう。
 本書は、大災害を経験した、当の村人たち自身が記録した、主として一七〇〇年代の文献を基礎に、恐ろしくも生々しい人々の大量死と絶望、混乱、そして復興への模索の様を描き出している。3・11は決して想定外の出来事ではなく、繰り返し祖先たちがもがき苦しんできたことだということを教えてくれる。人々は悲惨の記録を書き、「水塚」を築き、巨石の慰霊塔を残しているのに、なぜ私たちは、のど元過ぎれば熱さを忘れてしまうのであろうか。思い出したくないことを風化させてしまうことの戒めを伝えている。
 記録はただ惨状だけではなく、非常食や備荒貯蓄について語り、「コブシの花が咲かない年は用心せよ」など、かすかな自然界の変化に、それぞれが目を凝らし、耳を澄ますよう教える。また助けを請う人たちの複雑な心理に思いを寄せ、助ける側のかすかな不遜の念をも自戒するよう求めている。さらには、火事場にもなお我欲を貪(むさぼ)る人々のいることも書きこまれている。
 だが残った人々はやがて、かつての村の絆にすがり、新たな絆を結び、注意深くまた雄々しく地域の再建に立ち上がっていく姿をも捉えられている。著者は3・11の重さを胸に、祈るような思いで、こうした先人の苦難の内実を伝え、矛盾や対立さえも復興への原動力に変えていく人々の力強さに、希望を繋(つな)いでいる。3・11で胸が痛むのは、再建すべき町や村そのものを失いかねない人々が多数いることだ。
わたなべ・たかし 1957年生まれ。一橋大教授、日本近世史。著書『百姓たちの幕末維新』など。
農文協 ・ 2100円)
◆もう1冊 
 安田政彦著『災害復興の日本史』(吉川弘文館)。富士山噴火や明暦の大火、関東大震災などの記録を復興に焦点を当てて読み直す。
    −−「書評:日本人は災害からどう復興したか 渡辺尚志著」、『東京新聞』2013年4月28日(日)付。

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