覚え書:「書評:竹山道雄と昭和の時代 平川祐弘著」、『東京新聞』2013年5月19日(日)付。




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竹山道雄と昭和の時代 平川祐弘 著

2013年5月19日

[評者]勝又浩=文芸評論家
◆真の教養人の自由な精神
 市川崑監督によって二度も映画化された『ビルマの竪琴』は、その原作である新潮文庫版も読み継がれて版を重ねている。一つの国民文学だと言ってもよいと思うが、作者は小説家でも児童文学者でもない。元来は旧制第一高等学校のドイツ語の先生だった。
 本書はその竹山道雄の評伝である。人名索引を含めて五百三十ページに及ぶ大著で、よく調べられた伝記的な事実はもとより、何よりも真の教養人であり国際人であった竹山道雄の思想とその意義を縦横に論じ解説して、行き届いている。竹山道雄がいかに、日本の軍部、ヒトラーのドイツ、共産主義のロシア、毛沢東の中国を批判してぶれなかったか。その、一切の過剰なものを信じなかった彼の自由と中庸の精神を鮮やかに浮かび上がらせている。
 著者は『和魂洋才の系譜』などで知られる比較文化比較文学者であると同時に、竹山道雄の門下生であり、また娘婿でもある。それゆえ身内の弁や思い出話にならないように、極力第三者のことばを引いて客観性に努めたと断っているが、それは充分功を奏したと言ってよいであろう。
 著者の狙いだという「竹山の目を通して見た昭和の時代」「世界の歴史」という側面も見晴らしよく押さえられている。竹山道雄の思想を論ずる人はたくさんあるが、その思想を生きた人としての竹山道雄を同時代のなかに描いて、最も適任の人を得たのではないかと思われた。著者自身の個人的な見聞や裁断を遠慮なく披瀝(ひれき)しているところも刺激的で面白かった。
 この一冊から教えられたこと、考えさせられたことはたくさんあるが、小さな連想を一つ記せばこんなことがある。『ビルマの竪琴』では、歌が国や人種や戦場での敵味方さえ超える力を発揮するが、そんな歌の力はそのまま国際人竹山道雄の大きな教養そのものを象徴していたのかもしれない。とすれば、竹山道雄の思想とは、つまるところ平和の思想なのであろう。
 ひらかわ・すけひろ 1931年生まれ。東京大名誉教授。著書『小泉八雲』など。
(藤原書店・5880円)
◆もう1冊
 竹山道雄著『ビルマの竪琴』(新潮文庫)。第二次大戦中のビルマ戦線で、手製の竪琴で合唱の伴奏をした上等兵を主人公にした物語。
--竹山道雄と昭和の時代 平川祐弘 著
    −−「書評:竹山道雄と昭和の時代 平川祐弘著」、『東京新聞』2013年5月19日(日)付。

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