書評:倉沢愛子『資源の戦争 −−「大東亜共栄圏」の人流・物流』岩波書店、2012年。



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 日本軍の東南アジア占領の最大の目的は燃料、食料、鉄鉱石など戦争継続に必要な「重要国防資源」の獲得にあったことは、本書のなかで再三強調してきた。獲得したものは、現地自活のほかに、「大東亜共栄圏」内の物流に回すこと、日本へ搬送することが重要な意味をもち、搬送すべき量まで目標が定められていた。つまり戦争継続、日本国民の生存、あるいは現地自活のために必要な物資は、「獲得」するだけでなく、それを消費地まで「搬送」することが重要な課題であった。しかしそれができないために、各地でさまざまな物資が極端に不足したり、その一方で「滞貨」するという現象が起きたのであった。第二章で見たように、各占領地内でコメの不足や偏在をもたらしたのは、輸送力の不足であった。また第三章で見たように、ゴムや石油は国防資源として需要が多く、生産も間に合っていたにもかかわらず、輸送手段がなく、必要なところへ移動させることができなかったために滞貨が生じ、減産されることになった。
    −−倉沢愛子『資源の戦争 −−「大東亜共栄圏」の人流・物流』岩波書店、2012年、280頁。

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倉沢愛子『資源の戦争 「大東亜共栄圏」の人流・物流』岩波書店、読了。本書は、東南アジア地域研究者の筆者による「日本の戦時経済政策の分析を、現地の社会の状況分析と突き合わせていくこと」で大東亜共栄圏の実態を明らかにする労作だ。 

資源の戦争 - 岩波書店

共栄圏確立の為に実施された経済施策の殆どは、現地の実情や民生の向上とはほど遠いことを本書は丁寧に論証する。本音と建て前の分断のみならず「それだけの犠牲を強いて実行した資源取得政策が、日本の目的にさえかなわなかった」ことには驚く。

資源獲得の為に南方に「進出」したが、その実態は獲得どころではない。住民を餓死・酷死させるほど供出させた食料や資源は、輸送力不足のため現地で投棄されている。抑もプランテーションの東南アジアは食料輸入国なのである。実情を無視した搾取といってよい。

近年、政治家による、戦争を美化・正当化する発言が相次ぐ。そして賛美の拍手が止まない現状。しかし実相をみるとどうか。知人が「大東亜共栄圏」は実のところ「大東亜共“貧”圏なのでは?」と言ったが、それが現実であろう。本書の史料と聞き取りに真摯に耳を傾けたい。





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