覚え書:「書評:ミッキーの書式 戦後まんがの戦時下起源 大塚英志著」、『東京新聞』2013年5月26日(日)付。


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ミッキーの書式 戦後まんがの戦時下起源 大塚 英志 著

2013年5月26日

[評者]阿部嘉昭=北海道大准教授
◆円と黒の造型が躍動
 『鳥獣戯画』などの鳥羽絵の伝統とポストモダンが化合して、世界に冠たるクールジャパン・コンテンツが成立したという日本中心主義的な通説に、表現史からの正論をぶつけてみせた大塚の面目躍如たる一冊だ。責任不在の通説に対して大塚は本書をこう語りだす。大正アヴァンギャルドが注目した、エイゼンシュテインらをはじめとするロシア構成主義がディズニーアニメと交錯して、戦前のまんが原理がゆるやかに形成されていったのだから、日本まんがの形成史はじつは日本固有ではない。しかも構成主義は機械礼賛的な戦時体制と安直に結びつく。戦前・戦中のサブカルチャーの土壌は、実際そんな汚辱にまみれているのだと。
 その後にあふれてくるのは戦前まんがへの深い愛着だ。田河水泡のらくろ』に見え隠れする構成主義と、映画性の萌芽(ほうが)。ミッキーマウスを模倣して、造型に複数の円を組み合わせ、全体を黒にしたことで、「ミッキーの書式」からなる二足歩行動物キャラクターが田河以外にも躍動しだす。これが手塚治虫の登場の土台になった。
 戦時下の「科学」を子供向けまんがで捉えなおそうとした大城のぼるがストーリーを手放してゆく経緯と、海軍省後援アニメ『桃太郎 海の神兵』との構造的類似など、具体的な見解が満載。それらを実証する豊富なレア図版も見事だ。
 おおつか・えいじ 1958年生まれ。評論家。著書『戦後まんがの表現空間』。
 (角川学芸出版・3675円)
◆もう1冊 
 米沢嘉博著『戦後SFマンガ史』(ちくま文庫)。手塚治虫など戦後マンガの勃興期にSFが主流であった理由を考察。
    −−「書評:ミッキーの書式 戦後まんがの戦時下起源 大塚英志著」、『東京新聞』2013年5月26日(日)付。

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