覚え書:「書評:連続する問題 山城むつみ 著」、『東京新聞』2013年06月16日(日)付。




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連続する問題 山城むつみ 著

2013年6月16日

◆加害者性の自覚迫る
[評者]井口時男=文芸評論家
 このところの中国・北朝鮮・韓国とのトラブルの多くは、近代日本史の「後遺症」に起因している。戦争と植民地支配が終わって七十年近いが、傷口は双方になお癒えず、感情的反発を誘発している。政治はそれを利用する。
 本書は雑誌連載された時評的エッセイを集成したもの。話題は文学を中心に多岐にわたるが、「連続する問題」というタイトルは中野重治のエッセイからの借用である。中野はそこで、一九七〇年代に入ってなお未解決のまま残る戦前・戦後史の諸問題を指摘した。著者には、それらがさらに四十年後の今日にも「連続」しているという認識がある。
 過去の出来事によって心が深くこうむった「傷=後遺症」は、目をそむけず、冷静に認識し対象化することでしか治癒しない。フロイトはそう述べた。
 目をそむけたくなるのは、被害者としての過去よりも、むしろ、加害者としての過去である。しかし、シベリヤのラーゲリで八年間の理不尽に耐えた詩人・石原吉郎の言葉を著者は引く。「<人間>はつねに加害者のなかから生まれる」。自分自身の加害者性を自覚できる者だけが、かろうじて単独の<人間>として立ち上がる可能性を持つ、という意味だ。
 著者の考察は、論理的であろうとする姿勢で貫かれている。それが批評家の倫理である。
 やましろ・むつみ 1960年生まれ。文芸評論家。著書『転形期と思考』など。
幻戯書房・3360円)
◆もう1冊
 吉本隆明著『マス・イメージ論』(講談社文芸文庫)。文芸・漫画・歌謡などを通じて、変容する時代と文化を解読。
    −−「書評:連続する問題 山城むつみ 著」、『東京新聞』2013年06月16日(日)付。

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