書評:ヴィジャイ・プラシャド(粟飯原文子訳)『褐色の世界史 第三世界とはなにか』水声社、2013年。





ヴィジャイ・プラシャド『褐色の世界史 第三世界とはなにか』水声社第三世界とは地理的・歴史的に限定された場所ではない。帝国主義植民地主義に規定される現代を超克する思想運動という著者は位置づける。トータルな支配とその暴力に対峙する運動だから「探求」「陥穽」「抹殺」がその歩みだ。

第三世界という言葉ほど使い古された言葉はない。普遍的な自由と平等の烽火は、第一世界と第二世界の搾取の前に色あせ、旧支配層が搾取の当体へと転じ、偏狭なナショナリズムに堕してしまった。では第三世界はすでに消え失せたものなのか−−。

第三世界は場所ではない。プロジェクトである」(著者)であるとすれば、「決して消え去ってしまうことはない」と訳者は解説する。本文のみならず渾身の訳者解説は、遠くにある第三世界の認識を新たにし、それを日本社会の現在と接続するかのようだ。

第三世界は「反帝国主義連盟」にその萌芽がある(1927年)。その第三世界を抹消したのは日本を含む帝国主義と現在のグローバリズム(これを新しい帝国主義と言ってよいだろう)である。しかし日本においてはその歴史的経験すら忘却されている。

過去の歴史認識を巡る妄言やレイシズムの跋扈する現在日本で読まれるべき一冊だ。著者はインド出身で現在、米国トリニティ・カレッジ教授を務める。本書は過去に対するレクイエムではなく、「未完のプロジェクト」を未来へ紡ぎだす希望の一歩である。





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褐色の世界史―第三世界とはなにか
ヴィジャイ プラシャド
水声社
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