書評:渡部良三『歌集 小さな抵抗 殺戮を拒んだ日本兵』岩波書店、2011年。




渡部良三『歌集 小さな抵抗 殺戮を拒んだ日本兵岩波書店、読了。神は「汝殺す勿れ」と命じ、軍人勅諭は「下級のものは上官の命を承ること、実は直に朕が命を承る義」と命じた。

著者は前者を選んだ無教会キリスト者。学徒出陣で中国大陸へ渡った。度胸試しの捕虜刺殺を拒否して半殺し。その折り詠んだのが本書に収録された数々の歌だ。

著者は捕虜虐殺を拒否し、戦場では敵を殺すまいと銃弾をそらしたが、皇軍の略奪や強姦を止めることができなかった。そのことが重い自責となり、長く沈黙を続けたが、せめて孫には語りたい。衣服に縫いつけた短歌のメモを92年に私家版として編んだ。

冒頭で、抗命時の連作短歌が掲載され、以後、日本軍の作戦や出来事についてその経緯が作品とともに綴られている。学徒出陣から復員まで−−。

もし自分が戦場で捕虜虐殺を命じられたのならどうするのだろうか。

読了後、雄弁に何も語れなくなった。

言うもならぬ現実(うつつ)ぞいまし演習に新平(へい)十人は一人を刺して

祈れども踏むべき道は唯ひとつ殺さぬことと心決めたり

三八銃両手(もろて)にかかげ営庭を這いずり廻るリンチに馴れ

稀有なる人間記録だ。





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