覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 交際隠す文化の不幸=山田昌弘」、『毎日新聞』2014年03月05日(水)付。



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くらしの明日
私の社会保障
交際隠す文化の不幸
ペアが苦手な日本人
山田昌弘 中央大教授

 ソチ五輪が終わり、ようやく寝不足から解放された人も多いに違いない。フィギュアスケートでは日本勢が大活躍。羽生結弦選手が金メダル、女子もメダルは逃したものの、見事な演技を堪能できた。
 ただ、男女ともにシングルのレベルは高いのに、ペアではなかなかメダル候補が出てこない。なぜ、日本はペア競技が苦手なのか。理由は、日本社会に染みついた慣習にあるのではないかと思える。
 日本で就職した帰国子女の女性が「日本はイスラム教社会かと思った」と話していた。彼女の職場では、休憩時には女性同士でおしゃべりし、昼食も男女が別グループで行くという。
 私の講義を受けている学生を見てみると、見事に男女が別々の席に座っている。男女が隣り合っているのは珍しい。
 学生に聞くと、同性の方が居心地が良くて気楽だという。カップルはいても、みんなの前でベタベタする人はいないという。長く付き合っている彼氏が学科内にいる学生にも聞いてみたが、付き合っていること自体を秘密にし、普段も手をつなぐ機会などほとんどないという。とにかく、友人から何か言われるのがイヤなのだそうだ。
 結婚後の同じである。私は、手をつないで歩いている夫婦をめったに見かけない。私の友人で、いつも体が寄り添っている中年夫婦がいるので聞いてみたら、普通の夫婦とは思われず、子どもからも「目の前であまりベタベタされると恥ずかしい」と言われる、とこぼしていた。
 欧米やアジアの新興国などでは、カップルは2人でいる時は、友人や家族の前でもボディータッチを欠かさない。中高年も同じだ。いつも体を寄り添い、一緒にいることを楽しんでいる。カップルが人前で手をつながなくなったら、別れが近い証拠なのだという。
 つまり、欧米などでは、たとえ自分で異性と付き合った経験がなくても、2人でいることを楽しむカップルの振る舞いを日常的に見ているわけだ。
 対して日本では、他のカップルがどのように2人の時間を楽しんでいるのか、全くわからない。カップルで楽しむことを人前で表現することが苦手だから、ペアスケートがシングルに比べ低調なのかもしれない。
 問題はスケート競技にとどまらない。カップルでいる幸福を想像できないから、若者の男女交際が活性化せず、少子化がもたらされている可能性もある。根はもっと深く、他人の幸せを冷やかし、自分の幸せを隠す意識が強いのだとすれば、それは日本社会にとって不幸に違いない。

「異性の友人いる」少数 2013年版厚生労働省白書によると、未婚者に異性との交際状況を尋ねたところ、結婚相手の候補となりうる異性の友人がいない人は、男性が約6割、女性が約5割。相手のいない20代、30代に交際する際の不安を尋ねると、男性は交際の始め方に戸惑い、女性は恋愛への関心が薄れている傾向がうかがえた。
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 交際隠す文化の不幸=山田昌弘」、『毎日新聞』2014年03月05日(水)付。

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