覚え書:「発言 海外から 『謝罪の時代』直視せよ=キャロル・グラック」、『毎日新聞』2014年04月09日(水)付。


        • -

発言
海外から
「謝罪の時代」直視せよ
キャロル・グラック コロンビア大学教授(日本近現代史

 歴史問題、特に20世紀に起きた問題を今も抱えるのは日本だけではない。国際社会には、国家が過去とどう向き合うかについての規範がある。第二次大戦後に発展してきたもので、私は「グローバルな記憶の文化」と呼んでいる。
 一つの例が「謝罪の政治」だ。国家指導者が過去の過ちを相手国に謝罪することは、60年前にはめったになかったが、今では一般的になった。
 また、日本にとって重要なのが、1990年代に、従軍慰安婦問題が戦時中の女性に対する性暴力の例とみなされるようになったことだ。当時はボスニア紛争(92〜95年)中の(セルビア人兵士による)集団レイプなどを踏まえ、レイプを人道に対する罪とする国際法の流れがあった。慰安婦問題もこの文脈で取り上げられ、世界中に知られた。
 この二つのことは日韓関係の枠を超える。米下院が慰安婦問題で日本に謝罪を求める決議をしたり、ニュージャージーカリフォルニア州慰安婦の碑や像が設置されたりしたのには、こうした背景がある。韓国が世界中で日本非難キャンペーンを展開するのは主張が受け入れられやすいことを分かっているからだ。
 欧州のケースを見てみる。ナチス・ドイツによるホロコーストは第二次大戦中の大虐殺の象徴とみなされている。欧州連合(EU)が段階的に拡大する中で、新たな加盟国はホロコーストの記憶を共有することが求められた。
 ドイツは(ユダヤ人に対する)「謝罪」という言葉の代わりに「ドイツ人として過去と将来の責任を痛感する」という言い方で、謝罪を続けている。謝罪の撤回と取られかねないことはしていない。
 一方、欧州にとって問題なのはロシアだ。旧ソ連時代の東欧諸国への侵攻を認めず、現代の国際社会の規範に従っていない。東欧諸国がロシアを非難するのは、それが欧州で受け入れられると知っているからだ。対日非難をする韓国や中国と同じ論理だ。
 日本国内には、慰安婦問題で「もう十分に謝罪した」という声がある。あらゆる国家の指導者同様、安倍晋三首相が国内政治に対応する必要があるのは分かる。だが、(従軍慰安婦への旧日本軍の関与を認め謝罪した)「河野談話」(93年)の検証作業は、「謝罪の時代」において、国際的にはまったく通用しない話だ。【構成・草野和彦】
    −−「発言 海外から 『謝罪の時代』直視せよ=キャロル・グラック」、『毎日新聞』2014年04月09日(水)付。

        • -



102


Resize0752