書評:野田又夫『哲学の三つの伝統 他十二篇』岩波文庫、2013年。
野田又夫『哲学の三つの伝統 他十二篇』岩波文庫、読了。枢軸時代のギリシア、インド、中国で同時に誕生したのが哲学。著者はこの3つの伝統に注目し、哲学の大胆な世界史的通覧を試みる。哲学とは「理性をもって自由に答えよう」とする「世界と人生とについての人間らしい考えに達すること」であるという。
第一部六篇で古代から現代に至る世界の哲学史を俯瞰し、第二部六篇で、明治以降の日本の代表的な思想家を論じる。二つの焦点は異なるが(政治的主張を持った東西対比は不毛だが)、哲学の原理に「東西の区別はない」し、等しく省みることで未来を展望できる。
哲学以前、人類は宗教に拠って世界と人間を理解した(神話的想像力と権威への随順)。哲学はこれに反し「想像力を超えた理性を用い、自由な思考によって、問題に答えようとする」ものである。
三つの古代哲学には多様な考えをそれぞれ含み持つが、それは混乱や対立ではなく「人間の思想の可能性の全てを表現」していたことであり「人間の思想の様々な型」がでていたことに他ならない。それに与ることで「人間らしい考えに達する」ことができた。
「もとの古代哲学のもっていた自由な思考の幅はやや狭められ」てきたのがその継承の過程。だとすれば「自由に真実を求める努力をつづけることにより、これまでよりもさらに積極的に、世界の哲学の歴史に貢献しうる」のではないか。
さすが名著『パスカル』『デカルト』『ルネサンスの思想家たち』(全て岩波新書)の著者。いずれも、明晰かつみずみずしい文章で書かれている。基礎的な知識がバラバラで思想史の全体像が見渡せない、とお嘆きの高校生から専門知に惑溺する大人まで広く手にとってほしい。
しょうじきなところ、もうこれだけ、哲学を語ることのできるひとはいないだろうねえ。