覚え書:「書評:THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本 ブレイディみかこ 著」、『東京新聞』2016年10月30日(日)付。

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THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本 ブレイディみかこ 著

2016年10月30日
 
◆ロックに政治えぐる
[評者]岡田憲治=専修大教授
 「保育園落ちた」と叫べば「子供作った自己責任」といい、生活保護を切り捨て、学生に借金させ、非正規雇用の促進で未来をつぶす。「もうカネがない」といわんばかりだが、世界水準では「小さな政府」という不可解な国、日本。
 著者は二十年前に階級社会・英国へ移住し、ブロークン・ブリテン(格差拡大で社会崩壊する英国)を「地べた」の視線で生きる保育士になった。本書は英国で得たレンズで母国の現実を写し、「圧倒的腕力」の文章でえぐるルポである。
 著者の凄(すご)さは、体をはって生きる者の目線と直観で政治を構想するセンスである。「死ぬまで働け」と言われて貧困にあえぐ若者は、政治を避ける。中流幻影と現政権は絶望的なまでの強靱(きょうじん)さを保つ。NPOはミクロな支援ばかりに力を注ぐ。「人権と安保」の左翼は、「経済要因で起きる問題を政治で解決する戦略」という本来の責務を軽視する。本書は街中で起きていることを政治言語に翻訳できないこうした現状に批判を突きつける。「経済にデモクラシーだろ!」と。
 ロックな文章を裏で支える静かで確実な感情沸点を持つ著者は最終章、保育現場で子供と元大工のホームレス「カトウさん」が不思議に共生する世界に何かを見出(みいだ)し、得体(えたい)の知れぬ感情にやられバスで泣く。書き手としてもそこできちんとオチをつける。恐るべき保育士である。
 (太田出版・1620円)
 <ブレイディみかこ>1965年生まれ。英国在住の保育士・ライター。著書『ザ・レフト』など。
◆もう1冊 
 ブレイディみかこ著『ヨーロッパ・コーリング』(岩波書店)。独自の視点で激動の欧州政治を鋭く切り取る論考。
    −−「書評:THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本 ブレイディみかこ 著」、『東京新聞』2016年10月30日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2016103002000180.html



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ブレイディ みかこ
太田出版
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