みずから心を正しくしてこれらの害悪を対治する工夫を怠ることのないように



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 人類の上に重くのしかかって、改善の見込みのない(ように思われる)もろもろの害悪をつらつら思いみるとき、思慮ある人は、道義の穎廃ををすら招き兼ねないような苦悩を感じる、しかも無思慮な人は、これを夢にだに知らないのである。その苦悩とは−−世界の経過を全体的に支配している筈の摂理に対する不満にほかならない。それにも拘らず我々が摂理に満足することは(たとえ摂理がこの地上において、辛苦を伴う行路を我々に指示するにせよ)、この上もなく重要なのである。それは−−一つには、人生のさまざまな辛労に喘ぎながらもなおかつ勇気を奮い起こすためである。また一つには、これらの害悪を生ぜしめた責めを運命に転嫁することによって、恐らく一切の害悪の唯一の原因と思われるところの我々自身の責任を回避し、またみずから心を正しくしてこれらの害悪を対治する工夫を怠ることのないようにするためである。
    −−カント(篠田英雄訳)「人類の歴史の臆測的起源」、『啓蒙とは何か 他四篇』岩波文庫、1974年、75−76頁。

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手前味噌で恐縮なエントリーですが、非常勤講師にて「倫理学」を担当させていただいている大学の講義・試験が、本日にてなんとか終了しました。

90分1コマのために、我ながらまあ、往復6時間、毎週よく通ったなあと思いつつ、履修者の皆さんもほとんど休まれず、様々な論点を討議できたのは、お互いの財産なのではないかと思います。

いろいろと頭に来ることや、「なんや、コレ!!!」ってことの連続が、私たちの生活であり、生きている世界であるとすれば、結局の所、あきらめて無力になって待避するのでも、現状に対する単なる怒りで終わらせるだけでもなく、自分自身を日に日に新たに更新させながら、「なんとかさせたるゼ」ぐらいの勢いで、籠絡されないように心掛けたいなあ、とお互いに健闘し会った次第です。

ですから、これからは、現実の生活世界という「教室」の中で、思索を続けていって欲しいと思います。短い間ではありましたが、ありがとうございました。「自由と人生は、毎日それらを改めて征服する人にのみ価値がある」(ゲーテ)。









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