書評:玉居子精宏『大川周明 アジア独立の夢』平凡社新書、2012年。




大川が所長を務めた東亜経済調査局附属研究所(通称「大川塾」)。本書はその卒業生を取材し、戦前戦中昭和の東南アジアとの関わりを描き出す。理念と現実の格闘、善意と押し付けの間で揺れる人々の軌跡を活写する。

吉野作造関係で(大川の学位取得に吉野は奔走)手に取った。大川はイスラム学の先駆者として有名だが、予想以上に東南アジアに対する知見が深かったことに驚く。「アジア解放」を謳う大川の眼差しはアジア全体に注がれていたことが理解できる。

さて、大川塾は軍事・外交の手先として利用され「スパイ養成機関」との通評は否定できない。ただ卒業生の声に耳を傾けると、そう単純でもない。そこで学んだ人間たちには「アジア独立」を純粋に信じていたのは事実である(だから現実の壁も存在する)。

大川は「諸君の一番大事な事は正直と親切です。これが一切の根本です」と語ったという。「正直と親切のアジア主義」の理想を懐く塾生たちは現実に直面する。現地の軍部によって裏切られていくからだ。本書は日本の矛盾に嫌悪すら懐く事例を数多く紹介する。

彼らの善意に耳を傾けず、頭ごなしに否定することは無意味だが、実際の歴史の経過を無批判に礼讃することもできない。論争の喧噪を超え、歴史の両義性をどううけとめるのか、考えさせる一冊というのが正直な感想。単純な評価で目を閉ざさない矜持が必要か、了。

余談ですが、先に吉野作造大川周明の関係に言及しましたが、通評の右でいえば、大川だけでなく、吉野は、笹川良一とも会っているし、徳富蘇峰も利用するし、上杉慎吉とは親しい付き合いもある。と同時に、大杉栄との交流もある。ここに(この言葉は苦手ですが)「人間主義」を考えるヒントがある。

※忙しくてブクログの転載ですいません。





http://www.heibonsha.co.jp/catalogue/exec/viewer.cgi?page=browse&code=85_651





102_2





大川周明 アジア独立の夢 (平凡社新書)
玉居子 精宏
平凡社
売り上げランキング: 8523