書評:上杉忍『アメリカ黒人の歴史 奴隷貿易からオバマ大統領まで』中公新書、2013年。




上杉忍『アメリカ黒人の歴史』中公新書、読了。副題「奴隷貿易からオバマ大統領まで」、四百年にわたる合衆国の繁栄を支えた裏面の差別史を的確かつ簡潔にまとめた一冊。歩みを振り返るだけでなく、今なお残された課題の指摘も忘れないすぐれた米国史。これぞ「新書」の力か。

http://www.chuko.co.jp/shinsho/2013/03/102209.html

黒人は人口比およそ数十%、彼らは一貫して最底辺に沈澱する人々であった。著者は黒人を炭坑ガイドのカナリアに喩える。それはアメリカ社会の危機をいち早く伝える役割を果たしてきたからだ。南北戦争と世界大戦、公民権運動…。エッジに全てが集中する。

危機をアメリカ社会に知らせる「カナリア」は同時に社会変革の最前線に常に立ってきたことをも意味する。自由と平等の建前の内実を実らしめんとしたのは最も虐げられた人々である。証言でその消息を綴る。読みやすく立体的に理解できるのも本書の魅力である。

改善と是正の漸進主義が米国黒人史の流れだが、過去四半世紀は白人保守革命の時代。脱人種の「新自由主義」は、かえって差別の構造を肯定し強化する方向へシフトする。このことはアメリカだけに限定される話ではない。多くの人に手にとってほしい一冊。










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