書評:松田茂樹『少子化論 なぜまだ結婚、出産しやすい国にならないのか』勁草書房、2013年。


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 しかし、当面人口減少は止まらないからといって、少子化対策を諦めてよいのだろうか。仮に出生率が永遠に回復しなければ、この国は、当初どころか、永遠に人口減少をし続けてしまう。
 以上にあげた点をみると、筆者としては、「少子化論」の側に少なからぬ問題があるように思えてくる。少子化論とは、この問題に取り組む研究者等によってつくられた、少子化の現状や要因に対する理論のまとまりを指すものとする。従来の少子化論は、わが国の少子化の実態、その危機、その背景要因の<全体像>を精確に捉えることができていなかったのではないだろうか。また、それを世の中の人々に的確に伝えてきただろうか。少子化論には少子化対策をガイドする役割があるが、従来の対策が出生率回復につながらなかったのは、そのガイド役が適切でなかったからではないだろうか。
    −−松田茂樹少子化論 なぜまだ結婚、出産しやすい国にならないのか』勁草書房、2013年、ii−iii頁。

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松田茂樹少子化論 なぜまだ結婚、出産しやすい国にならないのか』勁草書房、読了。少子化対策が開始されてから、すでに二十年。合計特殊出生率は微増したが、その対策の効果には疑問が生じる。著者は従来の少子化論とその対策を膨大なデータから検証し、そのことで未来を見通す提言を提示する。


これまで「夫婦間の子どもの数」で論じられてきたが、現実の少子化の最大要因は「若年層の雇用の劣化により結婚できない者が増えたこと及びマスを占める典型的家族(夫は就業、妻は家事)という男女の役割分担において出産・育児が難しくなっていること」。

従来の対策は、女性個人の育児と就業だけ絞って展開されてきた(それが悪いのではないが)。しかし、経過を反省するなら、ピンポイント的支援で少子化を捉えるのではなく、要因背景として見逃せない非正規雇用の問題を含めた総合的な協業と試み直す必要がある。

「従来の少子化論は、わが国の少子化の実態、その危機、その背景要因の〈全体像〉を正確に捉えることができなかったのではないだろうか」というのが本書の執筆動機。少子化対策をガイドすべき少子化論の陥穽を正面から捉えることで、見えない問題に光を当てていく。

現行制度はあまりにも育児当事者支援に偏重してきたが(何もないよりはいいのだが)、このことは子育ては個人ないし家庭で「完結しろ」という自己責任論の一種かもしれないと思った。不必要な「協同」が先行し、必要な「協同」がスルーされるというか。了。










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